1部分:第一章
[2/5]
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
すらと微笑んだ。
「こちらです」
「はい」
小柄な女中に連れられて背の高いスラリとした外見の青年が入って来た。
青い冬の軍服を身に纏い腰からは短剣を下げている。帽子は白である。その凛々しい服を着る若者もまた颯爽としていた。
細い涼しげな顔立ちに切れ長の黒い瞳を持っている。そして小さく引き締まった唇を持っている。美男子と言ってよかった。
「お久し振りです、潤子さん」
「忠行様」
彼女、潤子はその若い軍医である忠行に名を呼ばれ顔を動かした。そして彼を見上げた。
「御会いしたいと思っていました」
「私もです」
忠行はそれに頷いた。優しい微笑みも浮かべていた。
「申し訳ありません、私のせいで」
潤子はここで忠行に対して謝罪した。
「何故謝られるのです?」
「私がこのような身体でなければ。貴方にも御迷惑はおわけしなかったのに」
「それは違います」
だが忠行はそれを否定した。
「私がこうして医学の道に入ったのは」
「はい」
「貴女をお救いする為でもあるのです。御国に尽くすと共に」
「私も」
「はい。私にとっては御国と貴女は同じものです。貴女がなくても御国がなくても私は生きてはいけない」
彼は静かな声でそう語った。
「貴女も御国もお救いしたい、私はそう願い軍医となりました」
「けれど私は」
潤子は悲しい顔をして顔を伏せた。
「胸の病で。こればかりは」
結核であった。この当時においてもなお不治の病であった。結核になれば人から離れさせられ、一人寂しく死んでいくのが宿命であった。彼女もそうであった。
「もうどうしようも」
「いえ」
忠行は首を横に振った。
「治らない病なぞこの世にはありません。それは私が保障します」
「貴方が」
「はい。私は医者だからわかるのです。潤子さん、貴女はなおります」
「だといいですけれど」
それを聞いても力なく笑みを返すことしかできなかった。
「血を吐くようになってもう一年、長くは」
「いえ、これからです」
それでも彼は言った。
「貴女は死にません、絶対に」
「絶対に」
「はい。医者である私の言葉を信じて下さい。潤子さん」
彼女の名をまた呼んだ。
「貴女は私が助けます。何としても」
「・・・・・・はい」
潤子はそれを聞いて頷いた。
「それでは宜しくお願いします」
「わかりました」
忠行も頷いた。そして二人はじっと見詰め合った。障子の向こうでは何かがしんしんと降りはじめていた。雪であった。舞鶴は雪が多い。今もまた降りはじめていたのだ。
二人はこのことをよく知っていた。潤子も忠行もここの生まれである。二人はかってこの雪の降る庭でよく遊んだものであった。
潤子はこの村の庄屋の一人娘であった。江戸時代は名字帯刀も許された由緒
[1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ