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奇跡はきっと
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第一章

                      奇跡はきっと
 戦争が終わった。長く辛い戦争だった。
 多くのものを失い多くの人が亡くなった。街は廃墟となり何も残ってはいない。しかし人々はそんな中でも何とか生きようとしていた。
「おい、その酒はやばいぞ」
「そうなのか?」
 酒を買ってその一升瓶を如何にも大事そうに抱えるようにして持っている若い男に対して彼の友人と思われる復員兵の服を着た男が言っていた。
「それカストリだぞ」
「げっ、これがかよ」
「それ三合飲んだら死ぬぞ」
 復員兵服の男はこう彼に告げる。
「三合でな」
「そりゃまたえげつない酒だな」
「ああ。だから飲むな」
 真面目な顔でまた告げていた。周りにあるのは瓦礫と何とか残っている感じの黒焦げが付いてしまったコンクリートの建物だけである。そして粗末なバラックの家が所々にある。その中をこれまた粗末な身なりの人々が生気のない顔で行き交っているだけである。
「絶対にな」
「ちぇっ、折角手に入れたのによ」
「死ぬよりましだろ」
 復員兵服はこう若者に告げた。
「折角あの戦争から生き残ったんだからな」
「まあな」
 それは若者も頷くことだった。
「ガダルカナルで何度死ぬかと思ったかわからねえよ」
「だったらその命粗末にするな」
 復員兵服はまた彼に告げた。
「いいな」
「ああ。そういえばな」
 若者は仕方なく酒の栓を空けて瓶の中にあったそれを出しながらそのうえで相棒に話してきた。まだ酒を名残惜しそうに見てはいたが。
「マチさんはやっぱりあれか?」
「ああ、あれだよ」
 復員兵服も若者に返した。
「今日も飯炊いて待ってるさ」
「息子さん待ってか」
「そうさ、待ってるよ」
 復員兵服はここで遠くを見た。そこには一軒だけ残っている家があった。小さいがそれは一軒家でそこにぽつんと建っていた。
「あそこでな」
「そうか。待ってるのか」
「ああ、待ってるよ。息子さんをな」
 こう若者に語るのだった。
「ずっとな」
「息子さんって確かあれだろ?」
 ここで若者は言った。視線を曇らせて。
「インパールだったよな」
「ああ、あそこだったんだよ」
 第二次世界大戦において日本軍が最も損害を出した戦いである。その損害は何と九割に達した。軍の損害としては消滅と呼ばれる。犠牲を厭わないと言われていた日本軍であtったがそれでもここまでの損害を出した戦いは空前絶後のものであった。
 ここまで損害を出してしまった理由はひとえに作戦の無謀さである。しかしこれはあくまでこの軍の司令官が異常であったのであり日本軍全てがここまで異常だったのではない。確かに官僚主義的傾向であり人選能力に甚だ疑問が残るが陸軍もその第二次世界大戦においては数々の武勲も
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