主神、加治神訪問
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そんなことを要求するつもりはない」
「………………なら、どういうつもりなのかしら?」
「言ったじゃろう?物々交換と」
軽々しい口調でテュールは言う。
「ええ、そうね…………」
「つまりはじゃ、此奴の犬歯四本以外を全部譲る代わりに、これを素材にして武器を、短刀を作ってくれぬかのう?」
テュールは牙の山の中にある象牙にも匹敵する巨大な牙四本を自分の前に残し、残りをすべて対面のヘファイストスに押しやった。
「犬歯以外の牙は少々小振りじゃが、これを冒険者用装身具にすれば、かなりのものになるじゃろうのう?それに、武器に埋め込めば、これまでにない特殊武装ができるやもしれんのう?」
心なしかテュールは悠然とヘファイストスを試すような口調で話を続ける。
「………………わかったわ。それでも、こんな素材扱える鍛冶師も一人しかいないから、その鍛冶師のところまで案内させるわ」
微動だにせず、思考を深めていたヘファイストスは少ししてかすかな溜息とともに静かに答えた。
――そのすぐ後に、『本当、何で私の周りには面倒事を持ち込む幼女神しかいないのかしら』と唇だけ僅かに動かして。
「うむ、恩に着る」
それに露ほども気付かず、満面の笑みを浮かべてテュールは答えた。
◇
「こ、ここが、も、目的地に、な、なりますですっ」
先程の店員が工業地帯の道の真ん中で、足を止めて、とある建物を手で指し伸べて指し示す。
「うむ、ここか」
背嚢を背負っているテュールは周囲から飛来する金属を叩くような音やドワーフの濁った掛け声などに眉一つ動かさずに頷く。
店員とテュールが現在いるのは、都市第二区画の工業区が隣接する北東のメインストリートに位置するとある平屋造りの工房の前だ。
「で、では、す、少し、ここでお待ちくださいです」
程度はかなり改善されたものの、いまだ恐縮している店員はぎこちない足取りで扉に向かうと、意味があるか定かではないが、ノックを数度して、中に入っていった。
すると、しばらくして、金属を叩く軽快な音が途絶え、
「お、お入りくださいです」
と、店員が開いた扉からひょっこり顔を出して言った。
◆
「しかし、広いな」
店員に導かれ、扉から薄暗い工房に入り、濃厚な鉄のニオイが充満する空気を潜りながら、キョロキョロと見回すテュールは感心するように言った。
「そうかもしれぬが、手前は気にしたことないな」
そのテュールの言葉に工房の奥、鍛冶場から女性の声が返ってきた。
その声が聞こえてすぐに声の主は二人の前に現れた。
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