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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第36話 追悼
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、そして幻想は……他人を殺すぞ。」

 冷めた視線で忠亮は横の少女を見た。
 それは同じ人間を見る目ではない、ただのモノを見る目だった。……がしかし、唐突に忠亮は瞳を伏せ、その視線を自ら遮った。

「やめよう、墓前でする話じゃない。」
「そうですね…過ぎたことを申しました。」

 少女を意識から外し、其処に要るはずのない彼女に意識を向ける。

 嘗て、守るべきモノが欲しいという己は師匠の勧めもあって、師匠の一人娘であった伊上ゆいと婚約を結んだ。人並みの幸福を知れば満たされるかもしれないと思ったからだ。
 彼女は己を支えてくれ、何より己の飢えと渇望に気付いた希少な人間だった。
 そして、彼女はその空虚と飢餓感を癒そうと尽力してくれた。己はそんな彼女をいつか愛し、守りたいと思えるだろうかと希望を抱いた。

 だけども、己の空虚は埋まることなど無く。
 正義は本質において異なる出自の正義どうしの淘汰により最後に残った正義こそが正義となる真理に気付いてしまったとき、己以外の正義を排除してまでも押し通すべきものなのかという疑念を抱いた。

 答えは、否である。核となる守りたいと思えるものが無い空虚な正義がほかの正義を駆逐していい理由はなかった。
 何より、女一人愛せない男が生きていて良い理由はない、人は誰かを常に傷つけながら生きているのだ。ならばこんな異常者が生きていて誰かを傷つけ続けるのは悪だと思ったから。

 だから己は斯衛となり、この空虚な人生に一抹の理由と共に幕引きを欲した。

 そうすれば、少なくとも友人家族、それに自分を支えてくれた女を守るという理由で納得できると思ったからだ。
 だが、彼女は己に付いてきてしまった。その意思を曲げることもなく。

 そして、(おれ)は永久に失ってしまった。誰よりも己を深く理解し、愛し、救おうとしてくれた女性を。


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