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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第36話 追悼
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ても仲睦まじい様子でした。互いに支え合って、信頼し合って―――若干、柾さんが引きずられている傾向がありましたが。
 だけど、それも長くは続かなかった――――」

 清十郎にとってもそれは辛い記憶なのだろう。幸せな記憶は最後が悲惨であればあるほどに持ち主を蝕むことがある―――痛いほどに理解できた。

「何があったんだ?」
「柾さんが師範代の免許皆伝を得たころの話です――あの人は剣術を生かす場を求め、近接戦闘が最重視される軍隊……つまりは斯衛軍に父の口利きで入隊しました。
 そして、大陸派兵……彼に付いていった許嫁――――伊上ゆい少尉が戦死したんです。」

 絞り出すように清十郎がそれを口にした。
 ゆい、同じ名―――

 “ゆい、か……やさしい名だ。俺は柾、柾 忠亮だ。”
 初めて言葉を交わした時の会話。きっと忠亮は自分の名に亡き想い人を幻視したのだろう。

 胸が痛い、どうしようもないほどに痛い。
 あのドロドロとした嫉妬の感触と違い、ただ悲しい。何が悲しいかなんてわからない、いろんな悲しみがぐちゃぐちゃと入り混じってしまっているから。

 愛されていない、ほんとは亡き人の影を追っているだけなのかもしれないと思うと、愛されていなかったかもしれないという不安と、報われない忠亮に涙が出そうになる。
 しかし、泣かない絶対に泣かない。

「あのころの柾さんはどこかおかしかった……道場に顔を出した時もまるで別人のようになってしまっていた―――あの時、柾さんとちゃんと話をしていればあんなことには成らなかったのかもしれなかったのに……!」

 あんなこと、それが指すものは明瞭であった。







「何をお祈りしたの宜しければ伺っても?」

 線香の煙が上り立つ墓石前、己の横に立つ少女が不意に問いかけてくる。

「身辺報告と、そして礼を。二人が己に残してくれた心があったから己は生きるという戦いを続けることが出来た。」
「なるほど、それは大切なモノだったのですね。」

「ええ、ゆいからは生きる理由をもらい、師匠からは道を征くために背を押してもらいました。二人には感謝の念しかない―――そして同時に、その死に対し哀悼の意を表するしかできないのは悲しい。」

 目を細めて墓石を眺める。この墓の下に己の剣の師が眠っているしかし、許嫁の彼女だけは居ない――骨すら持って帰ってはやれなかったから。


「……それは掛け替えのないモノですね」
「ええ。」

 少女の言葉に同意する。人が生きるために最も重要なことをあの二人から貰った。
 たとえ其れが借り物であろうとも。

「一つお聞きしても?」
「なんでしょうか?」

「一振先生の最期をあなたはどう思われますか。」
「そうですね……
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