暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
ロザリア
[1/6]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「痛っ! ……ああもう、面倒くさっ!」

 どこにでもある下町の、どこにでもある荒れた裏路地で。
 金にしては白っぽく、銀よりは黄金に近い、独特の色味を持つ白金の髪を肩まで伸ばした少女が、たった今素足で踏んでしまったガラス瓶の欠片を、持ち上げた足裏から引き抜き、雑に放り投げた。
 ぱっくり開いた傷口から鮮血が流れ落ちて。
 泥と苔に塗れている石畳を赤黒く染めていく。

「誰も見てない……、よな? ……よし」

 積まれただけの中身が無い木箱に座り。
 傷付いた右足の踵を、左膝の上に乗せ。
 左手のひらを傷口に向けて翳す。

 少女の目の色と同じ薄い緑色の淡い光が、手のひらからふわりと放たれ。
 傷口を柔らかく包んで、流れ落ちていた血液ごと、音もなく消えた。

 実の名前も年齢も出身も、何もかもをどこかに置き忘れてしまったらしい少女が、唯一思い通りに操れる、原理不明の不思議な力。
 他人に見られると面倒くさい事態になるのは、身に染みて理解していた。
 どうやらこの力は、他の誰も持っていない特殊な物で。
 他人に知られたら最後、化け物扱いか、もしくは。

「見つけましたよ、名無しさん」
「ぎゃあーッ! 出た、しつこい勧誘男!」

 背骨を覆う長さの黒髪を首筋で一つに束ねた、全身白装束の神父が。
 実に胡散くさい笑顔全開で、少女の左手首を掴んだ。

「またケガをしたのですね? ですから私の教会にいらっしゃいと、何度も言っているではありませんか。靴を失い、ワンピースもボロボロになって。何故そこまで意地を張るのです」

 ……他人に知られたら最後。化け物扱いされるか。
 もしくは、この神父のように力を手に入れたがる輩がいるから。
 もう二度と人前では使わないと、少女は決めたのだ。

「うるさいな。私は現状に不満なんか無いんだよ! カミサマに授けられた力とか、突然ワケわかんないこと言われて。あらまあ、そーですか。喜んでお手伝いしますうって、尻尾振って付いてくと思うか? バカじゃない?」

 少女は、掴まれた手首を引き剥がそうと、振り回してみたり、反対の手で叩いてみたりするが。
 神父の手は、がっしりと強く握って離れない。

「ですが、貴女の力は人を癒す。教典が記す女神アリアと同じ慈悲の力だ。その髪と目の色もアリアと同じ。偶然とは思えないのですよ。きっと貴女は女神アリアが遣わした……」
「んあああもおおっ! うざいうざいうざーい! 今! アリアアリアって何回言ったか、自分で分かってる!? 私は、生きてく為なら盗みもするし、動物だって殺す! あんたが言う悪徳の塊みたいなモンなんだよ! お偉い聖女サマなんかと一緒にしたら、せっかく任された教会も剥奪されるぞ!」
「アリアは女神です。聖女と称するなら
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ