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逆さの砂時計
ロザリア
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父の体が、雨の中をごろごろと転がる。
 少女は神父と男の間に転移し。
 男から神父を庇うように、両腕を広げて立った。
 少女の吊り上がった目には、怯えと怒りが混じっている。

 怒りはともかく、怯えは男でも初めて見る色で。
 反抗的な女を好む男の興味を削ぐには、充分なものだった。

「チッ。クソつまらん女になりやがって。ソイツ拾って、とっとと失せろ」
「……ああ」

 建物に入っていく男を見届けてから、苦痛に呻く神父の肩に手を置き。
 少女は頭の中に町外れの教会を思い描く。
 次の瞬間には、神父が預かっている教会の礼拝堂に居た。

「っの、バカ! 喧嘩もしたことないクセに、のこのこと出て来んな!」

 赤い絨毯の上で転がる神父の腹部に、右手のひらを翳し、癒す。
 そんな少女に、神父はふわりと優しく微笑み。
 横になったまま少女の右手を取って、その甲に軽く口付けた。

「貴女が嫌そうにしていたので。私の思い過ごしでしたか?」
「そうじゃな……っ! ああもうっ! とにかく、無謀な真似はやめろ! 私はもう治してやらないからな!」

 手を振り払って立ち上がる少女の、くたびれたワンピースの裾を掴み。
 神父の金色の目が、驚いて丸くなった少女の目をまっすぐに見上げる。

「ここに居てください。女神の遣いじゃなくても、聖女じゃなくても良い。これ以上、ボロボロになっていく貴女の姿を見るのは堪えられない。貴女はまだ、庇護を必要とする年頃の少女なのですよ」
「余計なお世話だ。私がズタボロになってくたばろうが野晒しになろうが、あんたには関係ない」
「なら、関係を作りましょうか」
「は?」

 神父も立ち上がり。
 もう一度少女の右手を取って、その甲を神父の額に触れさせた。
 少しの間を置いて、彼は口にする。

「『ロザリア』」

 新しい、少女の名前を。

「今日この時より、貴女を『ロザリア』と名付けます。女神アリアの祝福がその身に舞い降りますように。健やかに育ちなさい、ロザリア」

 産まれたばかりの赤子が受ける、洗礼の儀式。
 正式な手順こそ踏んではいないが。
 神父が教会で行うのであれぱ、問題はない。
 儀式は成立した。

「……名付け親だから世話をする義務があるとでも? すっごい屁理屈」
「ですが、事実になりました。教会に住みなさい、ロザリア。私が、貴女を善きように導きます」

 少女は拒むつもりだった。
 神父は苦手だし、堅苦しい空気も好きじゃない。
 なにより、力を目的としているのは明白。
 利用されるのは御免だ。

 だが。
 少女に生じた感情は、拒絶だけではなかった。
 何も持たない少女が、初めて自分だけの呼称を得た喜び、感動。

「……あんた、
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