ロザリア
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貴女のほうですよ、名無しさん」
「うっわ……本当にやめてくれ。聖女とか名無しさんとか、聞くに堪えない気持ち悪さなんだけど」
数年前。
この下町に流れ着いてすぐ、先ほどと同様に足裏のケガを治していたら、この神父に偶然見られてしまった。
以来、町の中のどこに居ても、鉢合わせるたびに追いかけてきては教会へ入れと、しつこくしつこく迫るので、少女は神父がすこぶる苦手だった。
他に行く当てもないからと、仕方なく居付いた町だが。
他所と違って、女と見れば見境なく喰らいつきたがる野獣共が居ない分、それなりに気に入っている。
この粘着質な勧誘さえなければ、なお良かった。
「貴女は名前なんか無いと仰っていました。無いものをどうお呼びすれば」
「呼ばんで良い。関わるな」
木箱を降りて、転がっている割れたガラス瓶を右手で拾い。
一向に離す気配がない神父の、手の甲の真上に掲げる。
さすがに避けるだろうと、勢いよく振り下ろして。
「……な……んなっ!?」
肉を刺し、骨を削る感触に絶句する。
神父の手の甲に深々と突き刺さったそれは。
少女の手にも届いて、小さな傷を付けた。
「っ……少し、痛みましたか? すみません」
「い、いや……、痛みは無いけど……って、そうじゃないだろ!? 痛いのはあんただろうが!! どうして避けるとかしないかな!?」
慌てて引き抜くと、塞いでいた物がなくなった場所から鮮血が溢れ出し、二人の手を濡らした。
「だって、離したら……、逃げてしまうでしょう……?」
神父の顔色が、みるみる青ざめる。
なのに、笑ってる。
「当たり前だ! どう説得されたって行くわけないだろうが、このバカ!!」
そう叫びながらも、赤く染まっているガラス瓶を放り投げ。
神父の手に右手を翳す。
淡い光が二人に舞い降りて……傷も血も、跡形もなく消し去った。
神父の顔色も、健康なものに戻っていく。
「ちくしょう……。こんなことに使わせるなよ、本当に……バカ」
治療が終わり、右腕をだらりと落とす少女。
その頬を、癒された神父の手がそっと撫でた。
「やはり、貴女は聖女だ。人を傷付けるのは嫌なんですね。大丈夫ですよ。貴女がこうして治してくれましたから。もう大丈夫ですから、泣かないで」
少女の頬から顎へと伝い落ちた涙を指先で掬い。
神父は優しく笑いかける。
「……っさい!! 二度と私の前に現れるな、変態神父!!」
神父の手を払い除けて数歩退くと、少女の体が突然消えた。
神父は驚いて辺りを見渡すが、やはり影も形もない。
しばらくの間、茫然と立ち竦んで。
渋々、教会へと戻っていった。
「あー……くっそぅ…
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