8部分:第八章
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でもですか」
「関係ない。いや」
「いや?」
「あの方に寄進するのだ」
こう従者に対して述べたのである。
「あの聖愚者にな」
「そうですか。あの方にですか」
「ああした方もおられるのだな」
そして言うのだった。
「世の中には」
「白痴でありながらですか」
「いや、白痴だからこそだ」
彼は言い換えた。
「だからこそだ。ああした方もおられるのだ」
「白痴だからですか」
「人というものは案外色々と考えられるようになっても駄目なのかな」
こう考え出しているルブランであった。
「それよりもだ。ただ神だけを考えられればそれで幸せになれる」
「あの方の様に」
「少なくとも我が国にはああした聖愚者はいない」
このことは間違いなかった。カトリック世界においてはそうした存在はいない。あくまで東方教会、とりわけロシア正教独自のものなのである。
「だからこそ余計に目に入ってしまうな」
「そして考えてしまうと」
「考えてはよくないのだろうがな」
こう前置きはした。
「だが」
「だが?」
「これは寄進させてもらおう」
右手にまたあのサファイアを取り出していた。それを右斜め後ろに控えるようにして共に歩いている従者に対して店ながらの言葉であった。
「是非な」
「わかりました。それでは」
「いい方を見られた」
ルブランはこう言って微笑んだ。
「人は。なまじ頭がいいからといってそれがいいものとは限らないのだな」
「確かに」
従者は主のこの言葉に静かに頷いて応えた。そうして黄金色のアーチ状の独特のロシア正教の寺院に向かいそこで寄進をするのだった。
聖愚者 完
2009・9・20
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