5部分:第五章
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第五章
「聖愚者とな」
「そうですね。これまた変わった呼び名です」
「やはりロシアは我が国とは全く違う」
そうした存在からもこのことを深く感じることになったルブランだった。真剣に考える顔になって口に右手を当てての言葉であった。
「こうした存在までいるとはな」
「興味がおありですか」
「ないと言えば嘘になる」
こう己の従者に返すのだった。
「やはりな」
「では旦那様、後で」
「明日は何もすることがない」
明日の予定から話をするのだった。
「そうだったな」
「はい、そうです」
それは従者が最もよく知っていることだった。彼の従者として知らない筈のない話であった。
「明日は本当に何もすることがありません」
「では明日だ」
彼は言った。
「明日じっくりと会ってみたい。明日な」
「わかりました。それでは」
「まずはゆっくりと休もう」
ルブランはここまで話すと大きく息を吐き出した。そうしてそのうえで言うのだった。
「この街に着いてすぐに宮殿だったしな」
「全く大変な行呈ですね」
「風呂にも入りたいしな。それで旅の垢を落としたい」
「ではサウナにでも」
「サウナ。確か岩の蒸気での風呂だったな」
サウナのことは彼も聞いて知っていたのである。焼いた岩に水をかけその蒸気と熱気により汗をかきそのうえで木の枝で身体を叩いて垢を落とす。そうした風呂なのである。
「それに入るとするか」
「ではホテルに入りましたら」
「うむ、まずはその風呂に入ろう。食事はそれからだ」
「わかりました」
こんな話をしてそのうえで長い旅と宮殿での謁見の疲れを癒すルブランだった。彼はその日はじっくりと休みその次の日の朝早くに。朝食を食べるとすぐにペテルブルグの街に出たのであった。
当然従者も一緒である。彼を後ろに連れ早速街を歩く。しかし最初に出会ったのは人ではなかった。
「街に出るとよくわかるな」
「ええ、寒いですね」
彼等はまずその寒さを味わうことになった。凍えるというのもおこがましい凄まじい冷気が彼等を招待したのだ。ロシア風のその毛皮に包んでいても彼等にとっては実に辛いものだった。
「馬車の中でもある程度感じましたが」
「実際はそれ以上だな」
「その通りです。朝ですから余計にでしょうが」
「それでも寒さはかなりのものだ」
「それでですが」
ここで従者はブリキの水筒を二つ出してきた。そうしてそのうちの一個を己の主に対して恭しく差し出してきたのであった。そうしてこう言うのだった。
「どうぞ」
「水か。違うな」
「はい、酒です」
それだというのである。
「ウォッカです」
「ああ、ロシアの酒だな」
「温まるそうです。ですからどうぞ」
「わかった。では貰おう」
従者の言葉を受けてその
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