3部分:第三章
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第三章
「あの僧侶は間違いなく」
「この国では白痴が僧侶になれるのか」
やはりそれでもまさかと思うルブランであった。
「有り得るのか、それは」
「どうでしょうか。ロシアはかなり独特な国ですが」
「そうだな。ロシアはロシアだ」
このことはここに来るまでで実感としてわかったことであった。
「フランスとも他の欧州の国とも違う」
「ですから何があっても誰がいてもおかしくはないですが」
「考えてみれば女帝陛下にしろ」
ルブランはその口に手を当てた。そうしてそのうえで述べるのだった。
「ロマノフ家の方ではないしな」
「ええ。縁者ではあられましたがロマノフ家の方ではありません」
「それどころかロシア人でもない」
ドイツ人である。しかしそれでも今ロシアの皇帝となっているのだ。しかもそのことについてロシアでは誰も異議を唱えないのである。唱えられないというのかも知れないが。
「それでもこの国の主だからな」
「ええ、考えてみればおかしな国です」
「そうだな。では行くか」
「はい」
こんな話をしながら彼は宮殿に入った。そのうえで従者を控えさせ女帝との謁見に赴いた。エカテリーナはみらびやかな謁見の間の玉座に座りそのうえで彼と対していた。
ルブランは優雅に一礼した。すぐに女帝から声がかかってきた。
「ルブラン伯爵ですね」
「はい」
「顔を上げて下さい」
彼女から声がかかってきた。それに応えて顔をあげるとそこには黒く波がかった豊かな髪を持つ紅の頬に細長くそれでいてその紅の頬をややふっくらとしている穏やかな目の女性がいた。全体的に気品があり優雅な印象を白い絹のドレスに包んでいる。彼女こそロシアの主であるエカテリーナ二世だ。この大国に君臨する絶対者である。
「ようこそロシアへ」
「はじめまして、陛下」
ルブランは相変わらず優雅な物腰のまま応える。
「今回参上致しましたのは」
「はい。何でも贈り物をして頂けるとか」
「我が国王ルイ十五世陛下から是非にといいまして」
こう前置きしてからの言葉であった。
「様々なものを持って来ました」
「そうですか。それは何よりです」
「そしてです」
無論贈り物が話の主題ではない。他にあるのだった。
「陛下も我々も懸念を抱かれていることですが」
「何でしょうか」
「まずはです」
しかしそれについて話す前に間を置くことにした。ここで宮廷の衛兵の一人があるものを運んできた。それはみらびやかなサファイアのネックレスだった。
「それが贈り物ですね」
「我が国の細工師が念入りにこしらえたものです」
今のルブランの言葉には優雅さと共に自国に対する自負もあった。
「是非共お受け取り下さい」
「有り難うございます。そして御用件とは」
「我が国のボードルード侯
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