最終六十六話:俺ノ為ノ世界
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男の方は銀色の髪に黒のメッシュを入れており、女性の方は艶やかな黒色の髪に金色の目といった何とも妖艶な雰囲気を醸し出しているが幸せそうに男の隣を歩く姿はただの少女に見えるので不思議だ。
「ルドガー、買うものはこれで全部かにゃ?」
「ああ、トマトもこれでしばらくは足りるだろ」
「じゃ、これ買ったら帰ろ」
代金を支払い目的の食材を買って自分達の家まで歩いて帰る二人。
夕暮れであかね色に染まる道を二人は黙ったまま歩く。
しかし、その沈黙は気まずいというものではなく不思議と心の落ち着く沈黙であった。
黒歌は隣を歩くルドガーを愛おし気に眺め、ついで空いている彼の左手と自分の手を見る。
そして、手を繋ごうと声をかけようとしたところで彼の方から手を伸ばされる。
「ほら、手、繋ぎたいんだろ?」
「……なんで分かったの?」
「俺が君の事を愛しているからじゃダメか?」
少し照れながら言われた言葉に思わず頬を赤らめてしまうが彼が突然口説いてくるのはいつものことなので気を取り直して差し出された手を握る。
その手から伝わる温もりにこれが幸せな夢ではなく、現実なのだという事を噛みしめながら黒歌は指を絡ませる。
「ねえ、今度ウエディングドレスを見に行かない?」
「まだ、結婚式をいつするかも決めていないのにか」
「私は早ければ早い方がいいって言ってるにゃ」
「そう言われてもな……。現状だと俺はまだ高校生だからな」
「愛さえあれば関係ないにゃ」
自分でも無茶なことを言っていると自覚しながらも黒歌は駄々をこねる子どものように頬を膨らませてルドガーの腕に抱き着く。
そんな愛らしい仕草に苦笑しながらルドガーは歩いていく。
どこまでも幸せな、当たり前の世界を。
しばらく道行く人にイチャイチャする姿を見せつけながら歩いていた二人は我が家に帰って来る。
そのまま、夕飯の話をしながらリビングに向かい扉を開けるとテーブルに座り鼻歌を歌いながら新聞を読む大きな背中が見えてくる。
『ただいま』
「お帰り、二人共」
二人の声に背中の主は鼻歌をやめ、振り返って微笑みかけてくる。
その姿に知らず知らずの内に目尻に涙が溜まっていくのを感じたルドガーは顔を振って自分も笑顔をつくる。
そんな仕草をどう受け取ったのか背中の主は気を使って話を逸らすように少し冗談めかして尋ねてくる。
「シェフ、今晩のメニューは?」
その問いかけにルドガーの胸には万感の想いが込み上げてくる。
あの日からずっと後悔してきた。
この人に食べさせてあげるまで決して作らないと誓った。
最愛の人にさえ、作らなかった。先に食べさせないといけない人がいるから。
でも、不可能だと思っていた。だからこそ、何度
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