第6章 流されて異界
第121話 人生は夢……あるいは
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その時、冷たい風が身体を打った。
これは……朔風……。
上空から見下ろした見覚えのある地形。峡谷に挟まれた街道には急ごしらえの土塁……おそらく土の系統魔法使いが突貫工事で造り上げた物……が築かれ、街道の左右にそそり立つ崖の上にはかなりの規模の兵たちが動き回っている。
刹那、峡谷を吹き抜ける際に発する風音が、時に高く、時に低く、まるで異界から響いて来る笛の音の如き不吉な音階を奏でた。
ここは……。
太陽は見えず。ただ重く、暗い雲が上空を覆い、今にも冷たい雨、もしくは雪を降らせ始めるかのような天候であった。
生者も。そして、死者さえも凍える。そんな冷たく、薄暗い世界……。
少し、この氷空に相応しい陰鬱な気分で再び足元に視線を戻す俺。但し、今度は先ほどよりも少し先の地点。狭い山道の向かう先に存在する岩から切り出された……見覚えのある建物群。俺の知識からすると、この街に似た景観を持つのはカッパドキアの遺跡。
もっとも、規模が違い過ぎて、この街と地球世界のカッパドキアを同一の物と捉える訳には行かないのですが。
ただ、何にしても……。
この街を攻める。街道には拠点防衛用の土塁が築かれ、両側の崖の上に兵が配置されている、と言う事は、今は戦時。そして、この街道の先に存在する街は、戦略上の重要な拠点のはず。その拠点を、もし俺が一軍を率いて攻める……街の施設に大きな被害を与えずに占領する心算ならば、それは兵糧攻めを選ぶ。時間的な余裕が有って、更に味方の損害を最小限に抑える心算ならば、なのだが。
確か史実では、この街道の先にある街と同じ名前の都市が陥落したのも兵糧攻めだったと記憶して居ますし。
夢見る者の思考でそう薄く考える俺。季節は真冬。両方の崖の上で弓を構える兵士たちの服装に統一性は見られず、コイツらは間違いなく傭兵の類。
おそらくその場に正規の兵はいない。
もっとも、トリステインに常備軍の制度は……あったけど、それは騎士団。今、弓を構えている連中は身形から考えると、騎士見習いどころか、臨時徴用の農奴程度――弓を持って居るだけでも大したものだ、と言っても過言ではないレベルの連中。
……ん? 弓を構えている?
先ほどまでの様子との違い。その時間の移り変わりをしっかりと確認しようとした俺。その瞬間、暴風の唸りにも似た大量の矢が風を切る音を響かせ、俺の視界を前から後ろへと抜ける街道を豪雨となって降りそそぐ。
その街道には――
何時の間に現われたのであろうか。数にして両方の崖の上に配置された傭兵部隊の半分以下。かなり少数の騎兵だけの部隊が存在していた。
少し意識を跳ばしている間に一気に時間が経過したのか? そう考えながら、意識をその少数の騎兵隊へと
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