1部分:第一章
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「駄目です」
「陳平殿も。囲んで攻めるしかないと」
「無理だな」
劉邦は誰よりも項羽を知っていた。だからそれでは項羽を倒せないとわかった。だからこそそれを否定するしかなかったのだ。
「囲みを破られて。逃げられるわ」
「ではどうすれば」
「それでも。やるしかないのだ」
彼は言った。
「攻めるしかな。しかし」
「それでは倒せない。左様ですね」
「その通りだ。どうするべきか」
一代の名将と謳われた韓信の軍が項羽の立て籠もる城を囲もうとしていた。しかしその彼とて項羽を倒せる自信はない。項羽はまだ健在だった。敗れてもなお。漢軍はその彼を前にしたまま攻めあぐねていた。どうやっても彼を倒せる自信がなかったのだ。
項羽は城の中において意気軒昂であった。その覇気は衰えずこう豪語していた。
巨大な身体を持っていた。大柄なだけでなくその筋肉も見事なものであった。精悍な顔に勇壮な髭を生やしまさに覇王と自ら号するのに相応しい。黄金色の鎧に身を包んだ彼はこう周りの兵士達に言っていた。
「次の戦いであの劉邦を倒す!」
彼にはその自信があった。だからこそ言えたのだ。
「だから安心せよ。我等は勝つのだ!」
「我等が勝つのですか」
「その通りだ」
そう兵士達にも答えていた。自信に満ちた声で。
「だからだ。落ち込むことはないぞ」
「はい」
「では次の戦いで」
兵も減り食糧もなくなっていた。敵は多い。しかしそれでも彼等はまだ立っていた。項羽はその彼等の心が自分にあるのを見て満足していた。これなら勝てる、そう確信していたのだ。
「大丈夫だ」
兵士達にも自分自身にも言い聞かせていた。
「わしは勝つぞ」
「大王が勝たれる」
「では聞こう」
ここで彼等は己の兵士達に問うた。
「わしは今まで多くの敵と戦ってきたな」
「ええ」
「確かに」
項羽は戦いに勝ち今を築いてきた男である。だからこそ兵士達は彼を深く敬愛しているのである。
「秦を破りあの漢に対しても」
彼は言う。
「僅か三万で五十六万の奴等を破ったではないか」
「あの時の再現ですね」
「それだけではない」
それだけ飽き足らない、そうした気持ちも彼にあった。
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