存在しない男
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[9]前 最初
編集長は椅子に座ったまま彼を見上げて問うた。
「会ってはいけない者だったのでしょう。決して」
「決して、か」
「はい。この世には知らなくていいものが時としてあります」
彼は言った。
「あれはそれの一つだったのです。今ではそう思います」
「そうか」
編集長はそれを聞いて大きく息を吐きながら一言そう言った。
「言われてみればそうかもな。彼はあの時死んだことになっている」
「はい」
「生きていてはいけないのだ。絶対にな」
「そういうことです。歴史、いえ人の世にとっては」
「そういうことだな」
編集長は彼の言葉に頷いた。それから窓に顔を向けた。
「彼は死んだんだ。そういうことになっている。だからあの記事は誤りだ」
「はい。残念ですが」
彼にもそれがわかった。そして彼も窓に顔を向けた。
そこには美しいマドリードの街が広がっている。そこに彼はいた。だが歴史において彼はそこにはいなかった。それが歴史の表における真実であった。
存在しない男 完
2005・5・5
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