存在しない男
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で男の一人があの方と呼んだのを確かに聞いた。間違いなかった。
「宜しいですね」
リーダー格の男が念を押すように尋ねてきた。
「はい」
彼はそれに頷くしかなかった。そして頷いた。
「間違いありません」
「わかりました」
男達はそれを聞いて会心の笑みを浮かべた。
「そう、貴方はあの汽車であの方には会ってはいない。いいですね」
「はい」
「あの方はここにはおられないのです。そう、亡くなられた」
「はい」
頷くことしかできなかった。
「それこそが真実なのです。唯一の」
「私達はそれを確かめたかったので。確かめることができて本当によかったです」
「わかりました」
彼はここでまた頷いた。
「私はどうやら勘違いをしていたようですね」
「そういうことです。それではこの話はこれで終わりですね」
「ええ」
「それでは」
男達はそれを受けて腰を上げた。そして部屋を去ろうとする。だが扉の前でふと足を止めた。
「おっと、言い忘れていたことが一つ」
「何でしょうか」
「我々は二人だけではないということをお忘れなく」
「はい」
「まあ何もないことを祈りますが。何もね」
「わかりました」
それは明らかな脅迫であった。だが今はそれから逃れることはできなかった。認めるしかなかったのであった。そして彼はそれを認めた。
二人の男は部屋を去った。彼はそれから編集長に何を言われてもその話の続編を書こうとはしなかった。何があろうと書きはしなかった。
暫く彼は常に何者かの視線を感じていた。そしてそれには常に殺気も併せて感じていた。彼はそれが何者によるものか、わかっていた。そして彼はそれを受けて動いていた。
暫くしてそれが急に消えた。ある日朝起きてみるとそれが感じられなくなっていたのだ。
(どういうことだ)
彼はそれを不審に思った。だがこの時彼は知らなかったのだ。南の港から船が一隻出港していたのを。そしてその船がアルゼンチンに向かっているということを。彼はマドリードにいたのではそれは知らなかったのであった。
それから数年後アルゼンチンで奇妙な噂が流れた。半分それは真実であった。
「それは本当ですか!?」
彼はそこで編集長に尋ねた。
「ああ」
彼は頷いてそれを認めた。そして言った。
「君の何年か前の記事だったな」
「はい」
「あれは本当のことだったのかもな」
「・・・・・・・・・」
彼はそれに答えようとしなかった。もうそれについて答えることができなくなっていたのだ。
「どうなのかな」
「わかりません」
彼はそう答えることしかできなかった。
「私があの時会ったのはおそらく」
「おそらく!?」
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