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存在しない男
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ょうか」
 彼等は硬いスペイン語で話してきた。流暢なものではなく何処かたどたどしいのである。
「ええ」
 彼は不審に思いながらもそれに応えた。断ることができなかったのだ。
 そして部屋に入れた。彼は男達と向かい合いソファーに座った。そして話をはじめた。
「あの記事についてお話したいことがありまして」
 二人の男のうちリーダー格と思われる男が彼に単刀直入に言ってきた。
「あの記事のことですか」
 彼にもそれはわかっていた。
「はい」 
 そして男達はそれに応えた。そして彼を見据えた。
「宜しいでしょうか」
「ええ」
 まさに蛇に睨まれた蛙であった。彼はそれを断ることができなかった。彼等に見据えられると答えられずにはいられなかったのである。
「まず貴方はあの時本当にあの汽車に乗っておられたのですか」
「はい」
 彼は答えた。
「間違いありませんね」
「ええ」
 認めるしか、答えるしかなかった。
「間違いありません」
「そうですか」
 彼等はそれを聞いて頷いた。
「それはわかりました。そして」
 今度はもう一方の男が尋ねてきた。男はやはり彼を見据えていた。その目は隣にいる男のそれよりも遥かに剣呑で冷たい青い光を放っていた。
(この男はまずい)
 彼はその目の光を見て本能的に悟った。それがよくわかった。
(殺られる)
 そう確信した。ゴクリ、と喉が鳴った。
「もう一つ御聞きしたいことがあります」
「はい」
 それはまさに異端審問であった。それまで一人でくつろいでいた部屋の雰囲気が急激に凍りついたものになっていくのを感じていた。
「貴方はあの時ある人物に御会いしたと書いておられますね」
「はい」
「それは本当でしょうか」
 男は彼を見据えながら問う。その目の光がさらに冷たいものになったと感じた。見れば男は右手をポケットの中に入れている。その中には死が入っているのがわかった。
「どうなのでしょうか」
「あの人物のことですね」
「はい」
「本当のことなのでしょうか、それは」
 リーダー格の男も問うてきた。氷の様な声で。死神が鎌を振り上げているのが見えるようであった。
「いえ」
 彼はその鎌から逃れることにした。首を横に振ったのだ。
「あれは私の誤りでした。どうやらあれは彼ではなかったようです」
「そうですか」
 男達はそれを聞いて笑った。冷たい、仮面の様な笑みであった。このマドリードでは今は霜は降らない。だが今彼は部屋を霜が降らんばかりの冷気が支配していることを感じていた。
「そうですね、それでいい」
「貴方はあの方を御覧になられたわけではないのです」
(あの方!?)
 彼はここ
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