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存在しない男
存在しない男
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 今度は自分のジョークに笑って腹を揺らせてきた。
「今頃この記事を読んで腰が抜けているだろうからな、修道院で」
「はい」
 答えながらさっきのやって来るという言葉が少し引っ掛かった。
「彼がスペイン語を使えるというのなら」
「彼はスペイン語を話せるのか?」
「可能性はありますね」
 そう答えた。
「何でもフランス語やイタリア語も自由に話せたそうですから」
「ふむ」
 編集長はそれを聞いて納得した。フランス語とイタリア語はそれぞれラテン系の言葉でありスペイン語にも近いものなのである。
「だとしたらスペイン語もかなり読めるかも知れないな」
「はい」
「まあそれはどうでもいいことだ。彼が今ここにいてもな」
「ええ」
「この記事は君の名前が入っていない」
「はい」
「そして記者の名前も別の名だ。万一のことはない」
「だと思います。だから私もそうしたのです」
「結構。いいか」
 編集長は言った。
「この国では少なくとも言論の自由は風の中の羽根のようなものだということはわかっておきたまえ」
「勿論です」
 フランコは独裁者である。独裁者の前には言論の自由はないのだ。フランコは独裁者としては穏やかでナチスやソ連のような真似はしたりはしないがそれでも独裁者であることには変わりがないのだ。何時心変わりしてしまうかという恐怖が彼等の中にあった。
「それではな。また頼む」
「はい」
 そう言いながら手紙を受け取る。先程編集長が持っていた手紙だ。彼の書いた記事なので彼が受け取ったのである。
 手紙はどれも驚きを示す内容であった。だがその中に一つ気になるものがあった。
「!?」
 彼はその手紙を読んだ時思わず我が目を疑った。
 そこには彼の本名が書かれていた。そしてそのうえで書かれていたのだ。面白かった、実に興味のある話だと。何処か堅い感じのするスペイン語で。
「これは」
 彼はその手紙を読んだ時嫌な予感がした。何か不吉なものを感じずにはいられなかった。
 それから数日後のことである。オフで自分のアパートでくつろいでいた時であった。彼の部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「はい」
 彼はそれに出た。するとそこには二人の背の高い男が立っていた。
「どうも」
 見れば二人共金色の髪に青い瞳を持っている。一目でラテン系ではないとわかる顔立ちであった。
「貴方が○○さんですね」
 彼等はここで彼があの記事で使ったペンネームを出してきた。
「はい」
 答えながら確信した。彼等があの手紙の主だと。彼等は今それを確かめる為にその名を呼んだのであった。
「わかりました。実は一つ御聞きしたいことがありまして」
「宜しいでし
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