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存在しない男
存在しない男
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リペ二世の時に黄金時代を迎える。だがそれでも彼等は満足しなかった。
「所詮人間が完全に満足できることなんてないのだろうな」
 いささかシニカルな考えに至った。そしてそのまま窓を見る。見れば駅に止まった。
「おっ」 
 彼のいる車両に誰かが入って来た。見れば一人の修道僧であった。彼はみすぼらしいフードに身を包んでいた。
「お坊様か」
 スペインではカトリックの力がとりわけ強い。これはハプスブルク家の影響もあった。神聖ローマ帝国の皇帝家である彼等はカトリックの守護者でもあったのだ。従って修道院もそこにいる僧侶も多いのである。
 彼は最初その僧侶を見て何も思わなかった。背は普通位で均整のとれた身体つきをしているようであった。
 その僧侶が彼の向かいの席にやって来た。そしてゆっくりと座り込んだ。
 顔が見えた。僧侶であるから髭はなく清潔な印象を受ける。だがそれ以上に異様なものをその僧侶に感じた。
「!?」
 彼はそれの僧侶の顔を見ていぶかしんだ。初老のその男は何故かとても一介の僧侶には見えなかったのだ。
 顔はごく普通の顔をしているように見えたが何かが違う。ラテン系の顔立ちではなかった。どちらかというとゲルマン系の顔立ちであった。そしてその目の光も。
 黒い瞳から放たれる光は何か異様なものがあった。鋭く、そして爛々と輝いていた。恐ろしい目であった。まるで何かを宿しているように。
(この目は)
 彼はその目を見て気付いた。同じ目を持っている者を一人知っているからだ。だが彼は死んだ筈である。
「あの」
 彼はその僧侶に声をかけた。かけずにはおれなかったのだ。
「貴方は、その」
 僧侶は顔をあげてきた。一言も発しない。そのかわりにその鋭い目で彼を見据えてきた。
「スペインの方ではないのではないでしょうか」
 答えない。やはりその目で見据えたままだ。だがその時顔全体が見えた。
 髭のないその顔がその人物のものと一致したのだ。彼の頭の中で。
「!」
 彼は一言も発しなかった。僧侶も一言も発しなかった。そしてそのまま次の駅に向かう。
 駅に着くと彼は降り立った。そしてホームに出る。ジャーナリストはそれを見ていた。
 見れば修道僧のそれとは思えぬ程の護衛がついていた。そして彼はその護衛に守られながらその場を後にした。彼はそれをずっと見ていた。
「間違いない」
 彼は確信した。そしてマドリードに戻るとすぐに自分の会社に戻りこう叫んだ。
「大ニュースだ!」
「大ニュースだって?」
 編集長がそれを聞いてシェスタから醒めたばかりの顔をあげた。太った顔に寝汗が浮かんでいる。
「一体どんなニュースなんだね。バルセロナの取材よりも凄いものなのかい?」
「ええ」

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