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アンジュラスの鐘
8部分:第八章
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りませんでした」
「そんな・・・・・・」
「この教会も同じですよ」
 老人は廃墟を見ながら述べた。
「この有様ですよ。同じ神様を信じている連中の爆弾でね」
「・・・・・・・・・」
「街も何もなくなりました。助けに来た人も次から次に死んでいって」
「それは聞いていましたが」
「もう駄目でしょうね、ここは」
 老人の声は沈んだものであった。
「こうなったら。何もありませんよ」
「何もですか」
「ええ。私だってね、この教会が好きだったんですよ」
「教会が」
「鐘の音も。けれどその鐘も」
「何もなくなったんですか」
「そうですよ、何も」
 老人は言う。
「なくなりましたよ。ほら、何もないでしょう」
 見えるのは瓦礫だけである。本当に何もない。
「それでどうしてどうにかなるって言えるんですか。言えないですよ」
「けれど」
 言おうとする。だがそこから先は言葉に出ない。
 何を言うべきかはわかってはいる。だがそれがどうしても出ないのだ。そのことに焦りと戸惑いを覚えていた。その時であった。
 ふと気付いた。廃墟の中に微かに見えるものが。思えばそれこそが天の配剤であったのだろう。
「あっ」
 最初に気付いたのは神父であった。思わず声をあげた。
「どうしたんですか?」
「あそこですよ、あそこ」
 そしてそこを指差す。廃墟の中から何か黒い鉄の様なものが見えていたのである。
「あれは。何でしょうか」
「何でしょうかと言われましても」
 老人にはわかりかねていた。それにこんな廃墟に何もないと思っていたのである。
 だがそれは違っていた。それは確かにあったのだ。あったというよりは生きていたといった方がいいかも知れない。そう、それはあったのだ。廃墟の中に。
「少し、見てみませんか?」
「お金とかそんなのは落ちていませんよ」
「そんなのには興味はありません」
 神父はそうしたことには本当に関心が薄かった。金やそうしたことには元々欲望が希薄だったのである。こうしたところは如何にも神父らしいと言えた。少なくともこの点においては彼は神父として、宗教家として合格であった。中にはそうではない宗教家も大勢いるのだ。あまつさえ神を信じない宗教家すらいるのだ。この神父にとっては悪いことにローマ=カトリック教会にはそうした教皇もいた。バチカンというのは非常に困った場所であった時期が長く信仰よりも政治、天国よりも現世について感心が深い時代があったのだ。中には本当に神を信じず政治闘争と謀略、華やかな宴と美女に美食、美酒に明け暮れた教皇までいた。愛人との間に多くの子をもうけ、その子の一人がこれまたとてもつない野心家であり目的の為には手段を選ばず、父と共に謀略と姦計、暗殺に奔走していたこともあった。宗教家といっても様々なのである。
「それ
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