7部分:第七章
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いです」
神父はその言葉にこう返した。
「大尉とは長いお付き合いですし」
「その様ですね」
「ええ、こちらにも何度もお邪魔していますし」
神父は基地の中を歩きながら語る。今見る場所も見知った場所であった。
「それにしても大尉もやはり」
「かなり塞ぎ込んでおられました」
「あまり思い詰められるのはよくないのですが」
「生真面目な方ですから」
だからこそ余計心配なのだ、神父は心の中で思った、神父という職にある為多くの者の心を見てきた。だからこそわかるのだ。真面目な人間程思い悩む。不安が心の中を支配していた。
暑い日差しの中白い軍服の光が眩しい。しかしどの者もガクリと肩を落としていた。少尉も同じである。オーラが見えるようであった。沈んだオーラが。神父はそうした沈みきった気も感じていた。だがそれに対して何も言うことは出来なくなってしまっていたのであった。彼もまた沈んでいたからだ。
「こちらです」
建物の中の一室の前に案内された。廊下は木造であり、建物も同じであった。何処か古ぼけた学校の様な印象を受ける建物であった。
少尉が扉をノックした。三回だった。その後で述べた。
「入ります」
何処か海軍兵学校の生徒を思わせるようなキビキビとした動作であった。少尉ならば兵学校を出てあまり時間が経ってはいないだろう。それが自然に動きに出たのであろうか。
少尉は扉を開けた。そこに大尉がいた。だが彼は。床の上に蹲って事切れていたのであった。
「大尉・・・・・・」
神父も少尉もその事切れた大尉を見て呆然となった。言葉もない。
「どうして・・・・・・・」
「何故こんなことを」
二人は大尉に声をかける。だが当然返事はない。そのかわりに彼の机の上に一枚の書置きを見た。
「それは」
「遺書ですね」
少尉がそれを手に取った。そして言った。
「遺書・・・・・・」
「はい、これは」
見れば神父にあてたものであった。それを見た少尉は彼に声をかけてきた。
「御覧になられますか」
「宜しいのですか?」
「はい、貴方宛てですから」
彼はそう言って神父に手紙を渡した。神父はそれを受け取ると封を切ってその中を見た。
そこには軍人としての大尉の気概が書かれていた。自分は何よりもまず帝国海軍の軍人であると。そしてその最後として軍人らしい最期を遂げたいと。そう書かれていた。
「だからだったのですか」
彼は腹を切ったのだ。軍人らしく国に殉じる。この時こうして自ら命を絶った者は多かった。誰もが泣き、そして国に殉じたのだ。そうした者も多くいたのであった。
「神を信じるよりもまず」
キリスト教では自殺を禁じている。しかし彼はあえて自害した。それはクリスチャンであるよりも前に海軍軍人であったからだ。彼はやはり軍人であった。
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