4部分:第四章
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い顔でそれに応えて頷いた。
「何としてもな」
「そうでなければ報われんわ」
僧侶はこうも言った。
「若者達が。この戦争に殉じた人達が」
「そして今も戦っている人達が」
「後になって侵略とか悪とか言うかも知れん。そりゃ他の国から見たらそうかも知れん」
それでも。彼は言いたかった。
「日本には日本の大義があり理由があった。それは言いたい」
「そうですよね。だから私も」
「御国の為にか」
「主もそれを許して下さいます」
胸にある十字架も捧げた。国の為に。それもまた信仰だからと思ったから。彼もまた僧侶と同じく自分にとってかけがえのないものを国に捧げていた。神主もそれは同じだった。息子を戦場に送り、その息子は片腕を亡くして帰って来た。だが彼はそれには何も言わなかった。御国の為だからと。命があっただけよかったとも思っていただろうか。だが神主はそれについては何も語らないのでよくわからなかった。
「わしは、間違ってはおらぬよな」
「そう思いますよ」
「だったらいいのじゃが」
僧侶も最近めっきり弱気になっていた。戦局に鑑みてどうしても明るい心境にはなれなかったのだ。
港の船はさらに減っていた。空襲も増える一方だ。もうおおよそのことはわかってきていた。戦争は日本にとってまずい状況にあると。それで彼も弱気になっていたのだ。住職も黙ることが多くなっていた。皆暗い心境になっていた。
「鐘です」
神父はまた言った。
「きっと鐘の音が聴けます。ですから」
「そうじゃな」
「だからわし等も」
「はい」
「今は」
「そうじゃな。堪えよう」
「そして鐘を」
「聴けますよ、きっと」
いささかではあるが暗い気持ちは晴れた。だが戦局は悪くなる一方であった。大尉の顔も暗くなるばかりでありそれもまた戦局を雄弁に物語っていた。
「何、大丈夫ですよ」
それでも彼は神父にはこう述べて安心させるのであった。
「本土には断じて入れません」
「左様ですか」
「は、何があっても」
顔は暗いが声は強かった。しかし。その顔色は真っ暗であった。それは隠しようがなかった。
「ですから。御安心下さい」
「はあ」
「貴方はそのまま御自身の仕事をされていればいいです」
「それで宜しいのですね?」
「それもまた御国の為だからです」
大尉は言った。
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