10部分:第十章
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第十章
「その証拠にほら」
鐘が鳴らされた。すると澄んだ音が街に鳴り響いた。
「聴こえますよね」
「うむ」
「確かにな」
「鐘が鳴るのが何よりの証拠です。そして」
「またこれからじゃな」
「はい」
神父は神主の言葉に頷いた。
「そう、これからです」
「日本は確かに戦争に負けた」
「しかし絶望することはないんじゃ」
僧侶も鐘を見て言う。彼等は今自分自身にも言い聞かせているようであった。戦争に敗れ絶望しきっていた自分自身に対して。言い聞かせているようであった。
「またやりなおせばいい」
「はい、そうです」
「鹿屋でもね」
牧師がここで言った。
「多くの人はこれからのことを言っていましたよ」
「これからのこと」
「はい、鹿屋には神風特攻隊の方々がおられましたが」
「話は聞いておる」
「皆立派だったそうじゃな」
「笑顔で最後の出撃に向かわれたとか」
「そうです、皆さん本当に立派でした」
彼は鐘を見上げながら語った。
「ここで散っても。ずっと日本を見ているからと」
「日本を」
「はい。これからの日本の為に自分達は行くのだと」
「これからの為か」
「日本を守る為に。そう仰って皆さん」
「若い命を捧げていったのか」
「はい・・・・・・」
彼は泣いていた。鹿屋で多く見てきた特攻隊の若者達のことを想っていたのである。彼等は純粋に全てを捧げ、そして散っていった。彼等を否定するのは簡単であろう。だが実際にその心を少しでも触れたならば。誰が彼等を否定することができるであろうか。それは心ある者には出来ないことである。
「日本のこれからを守るのだと」
「靖国にか」
「・・・・・・はい」
「その心、大切にせねばのう」
「ええ、その為には」
「頑張らないといけませんね」
神父がここで言った。
「散っていった方々の為にも」
そう言いながら大尉のことを思い出していた。彼も同じだったのだおる。キリストを信じる者としては彼のしたことは認められない。だが日本人として、海軍軍人としては彼の最期は理解出来た。神父は神に仕える身であったが大尉を否定することはしなかったのだ。何よりもこの鐘に自分を向かわせてくれた人なのだから。その最期に。
「大義の為にも」
「大義も。あったんじゃな」
「そうです、だから鐘があったのです」
「この鐘が」
「大義があったからこそ」
「残っていたのか」
「何よりも日本も生きることができるということが」
「そしてこれからのことも」
「今は廃墟ですが」
「きっとな」
「この街も」
「そう、そして日本も」
四人は鐘の鳴る前で言い合う。
「この戦争に命を捧げた人達の為に」
「残された大義の為に」
「もう一度頑張ろう」
「英霊達が笑顔で見守ってくれる
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