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アンジュラスの鐘
1部分:第一章
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うわかっていますよ」
「・・・・・・・・・」
 将校はその言葉を聞き俯いてしまった。
「わからないわけがないでしょう。ラジオや新聞ではもう」
「そうですね。もう皆わかっていますね」
「はい。臣民は皆陛下の赤子となり」
 神父は言った。
「この戦いに全てを捧げる覚悟はできております。そう、それは私も」
「神父であっても」
「ですから私は日本人です」
 彼はまたそれを言った。
「神にお仕えしていても。それは変わりません」
「左様ですか」
「ですから今ここにいるのです」
「それでは」
「はい、微力ですが」
 彼は言う。
「私も。ここにいさせて下さい。そして」
「はい、皇国の為に」
 将校もまた強い声で言った。
「宜しくお願いします」
「私はここで皆さんの心を救うことができれば」
「では長崎の教会は」
「よいのです」
 神父はそれまでの厳しい顔を消していた。声も優しいものになっていた。
「ここにこそ救われるべき人達がいれば。私はここにいます」
「有り難うございます、これで」
 将校は礼を述べた。
「私達もまた救われます」
「大尉」
 神父は将校に声をかけた。見れば彼の階級は確かに大尉のものであった。
「貴方はクリスチャンなのですか?」
「ええ、そうです」
 大尉はその言葉に答えた。
「カトリックです。親の代から」
「そうだったのですか」
「長崎に生まれましてね」
 ふとここで遠いものを見る顔になった。
「江田島に進みまして。それから」
 海軍兵学校のことである。当時海軍将校といえばエリート中のエリートであった。誰もが羨むような存在だったのである。今となっては遠い昔の話であるが。
「横須賀から。こっちに来ました」
「左様でしたか」
「まあ誰も気にしないので言わないでいましたけれどね」
 そう述べて苦笑した。
「何分キリスト教というのは海軍には馴染みが少ないものでして」
「いえいえ」
「私の他にもちょっといますが。連中にも宜しくお願いします」
「わかりました。それでは」
「はい」
 二人は頷き合った。
「御国の為に」
「行くのは靖国ですが」
「神の御加護があらんことを」
 不思議な話であった。神を信じていながら行く場所は靖国なのである。だが彼等はそれを自然に受け入れていた。死ねば靖国に行き、また神も信じる。それでよかったのだ。彼等はそう考えていた。キリストを信じると共に軍人であり、そして日本人であったのだから。彼等はそれでよかったのだ。神も靖国も信じていたのだ。
 程なくしてアメリカとの戦いがはじまった。世の中は沸きに沸き返った。
「鬼畜米英!」
「今こそ奴等を討つ時だ!」
「亜細亜の大義をここに!」
「八紘一宇の精神を東亜に!」
 そんな言葉が溢れ返っ
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