十二話:試合と日常
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―――イメージするのは常に最強の自分だ。
外敵など要らない。
自分にとって戦う相手は、いつだって自身のイメージに他ならないのだ。
少女、ジークリンデ・エレミアはシード選手控え室にてストレッチをしながらイメージトレーニングを行っていた。
ジークにとっての敵はまさに自分自身であった。
慢心しているわけではないが圧倒的な力を持つ彼女が普通に戦って負けることはない。
しかし、彼女にとって勝ち方は非常に重要であった。
エレミアの神髄を解放せずに勝つことが彼女の中でのルールであり目下の目標である。
ただ、操られるように相手を傷つけて勝つというのは優しい彼女にとっては敗北よりも辛い事である。
だからこそ、弱気になってしまいそうな心を奮い立たせるように彼女はイメージする。
自身が力に振り回されることなく勝ち進んでいく姿を。
自身が栄冠に輝く姿を。
自身が想い人にその胸の内を明かす姿を。
想いが通じ好きだと言われるその瞬間を。
そのロマンチックなムードのまま彼と唇を重ね合わせる自分の姿を彼女はイメージする。
「えへ、えへへ……リヒター」
ジークはだらしなく頬を緩ませて妄想にふけっていた。
そこにいるのはチャンピオンではなく、ただの恋する乙女だった。
「……お前は何をしているんだ?」
「ひゃっ!? リ、リヒター! なんでここにおるん!?」
「何でも何も、セコンドなんだからお前の元に居るのが普通じゃないのか?」
「それは……そーやけど」
突如、といっても妄想にふけっていたジークが気づかなかっただけで途中から来ていたリヒターに声を掛けられて妄想の内容もあり慌てふためくジーク。
そんな彼女の様子にいつものことかと思いながら上から覗き込むリヒター。
彼女は先ほどの妄想のように彼の顔がすぐ目の前にある事に混乱して目をグルグルと回す。
彼は彼女の様子に緊張していると思い、少し笑いながら彼女の頭にポンと手を置いてやる。
彼女はその事実に頭が沸騰しそうになるぐらいに顔を真っ赤にするが彼は手をどかさない。
「そう、心配するな。俺がいるんだ、お前は一人で戦うわけじゃない」
「っ! ……うん、おおきにな」
彼の言葉にジークは満面の笑顔を返す。
やっぱり、ふとした瞬間に優しくしてくれる人だなと改めて思いながら。
「よー、ジーク! いるか? いるよな?」
「ば、番長?」
「ミカ姉の試合始まってるぜ? 見に行かねーのか?」
勢いよく現れたハリーに思わず先程の顔の火照りが見破られないか不安になるものの何とか平静を装って返す。
しかし、今度は思わず暗くなってしまうような話題に顔を曇らせる。
彼女は去年、ミカヤに怪我を負わせてし
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