【空拳編】 でーじすっごいよ
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《とうたん》に近い一点に×印がひとつある。
上部に一文だけ記された但し書きにはこうあった。
【Second Floor】
第二層の、ここに来い、ということだろうか。
もう僕は、ここまでされたらこの世界に行かないわけにはいかなかった。これは彼からの、極めて明確な挑戦状だ。どうだ、やってみろ、という無言の挑発。
別れ際の喧嘩組手の、リターンマッチ。
上等。
受けて立とう。
そしてついに、その時。運命の瞬間、という表現はちっとも大げさではない。
SAO正式サービスが開始される、2022年11月6日、日曜日。13時ジャスト。
玄関のルーターに近く、電波状況の一番いいリビングに陣取ることに決めた。
電源コードを部屋の隅のコンセントから引っ張る。
ナーヴギアは、フルコン空手の試合で被ったスーパーセーフに似ていた。いかにもこれから戦いに赴く、という感じ。その首元近くのスロットに、SAOのROMカードが差し込まれていることをしっかりと確認する。
籐製の椅子にぎしりと腰かける。正面にはテレビがあるが、今日はくつろぎに来たわけではない。戦いに出るのだ。僕は真っ黒い流線型のヘッドギアを被り、顎の下でしっかりロックした。そして、
「……ケンジ兄ィニィ?」
耳慣れない声を聞いた。か細い、女の子の声。
我ながら兄としてどうなんだと思うけれど、振り返ってこの目で見るまで、本気で誰だかわからなかった。
淡い茶髪をふわふわと遊ばせて、よそ行きの、ウール地のコートに身を包んだ少女が、台所から顔を覗かせて、怪訝そうにこちらを見ていた。
しばらく疎遠になっていた実の妹だ。
僕の記憶が確かなら、今、19歳。大学生。
別に仲が悪いわけではないのだけれど、部屋も歳も生活リズムも離れているし、いつもは話す用もない。
もう半年くらい、まともに口をきいていない気がする。
今日に限って、どうして。
「あー……」と、僕は唸った。
彼女は黙ってこちらを見ている。どうしてしまったのか。
「ごめん、ここ座る? ……テレビ見る?」
ひとまずそう訊いてみると、彼女はふるふると首を横に振って、柔い茶髪を揺らした。
そして僕の正面に回り込むと、足元に屈んで僕の顔を覗いてきた。
感情の読み取りにくい、ボリュームのあるマスカラ越しの上目遣い。
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