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ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜
追憶の惨劇と契り篇
52.圧倒なる狂気
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すると獣人の男は、首を横に振った。
「違う。ここで君を失えば、我々の勝ち目はなくなることになる。だから、彩斗には完全になってもらわなければならない」
そう言って抱えていた白衣の女性を彩斗と呼ばれた少年の前に降ろすと再び、金髪の吸血鬼へと向き直った。
「完全? なんだよそれ?」
「その話は、ここから生きのびてからです!」
何かを言いかけた彩斗に有無を言わさず獣人は叫んだ。
悔しさを抑え込むように唇を噛みしめている。口から血が流れる。それを舌で舐めた彼は覚悟は決めたというような表情を浮かべる。
「柚木と母さんを連れて必ず戻ってきますから、それまで待っててください」
彩斗は白衣の女性を抱きかかえて金髪の吸血鬼に背を向ける。
「行くぞ、ここから逃げる」
彩斗は動けずにいる友妃の手を強引に握り、そのまま走り出す。
「あァ? 逃すとでも思ったのかよォ!」
後方から恐怖としか言い表せない声が鼓膜を震わせる。足が止まりそうになる。彼が強引に引っ張ってくれているおかげで止まらずに辛うじて動くことができる。
振り向きたい。しかし振り向けば、再び足は止まってしまうだろう。
怖い。怖くてしょうがない。
恐怖が徐々にこみ上げる。見えないということはこれほど怖いことだっただろうか。
何かが迫ってくるのを感じる。間違いなくあの蛇だ。逃げなくては。もっと早く逃げなくては。
恐怖が侵食していく。弱さが蝕む。全てが喪失されていく。
そんな感覚が友妃を包み込んだその時だった。轟音が友妃のすぐ後ろで鳴り響いた。それとともにとてつもない熱気が襲ってくる。
思わず振り返ろうとする友妃に彩斗が、
「振り向くな。アレイストさんたちを信じろ」
彩斗は一切振り向かずに金髪の吸血鬼の手が届かない場所に逃げようとしている。わずかに見えた横顔は自分の弱さを憎むように、それを必死で圧し殺すようなに見えた。
彼に何か声をかけたい。しかしその言葉が見つからない。
ただ、二人は足を動かし続けることしかできなかった。
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