暁 〜小説投稿サイト〜
ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜
追憶の惨劇と契り篇
52.圧倒なる狂気
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死ね」

 冷たい声とともに指の骨が鳴る乾いた音が響いた。それを合図に今まで沈黙していた絶望が動き出した。
 悲鳴にも似た叫び声が大気を震わす。すると眷獣の周りの空間が無数に波打つ。そこから現れたのは、蛇だ。十、二十など下らない。百や千、あるいはそれ以上の多さだ。

「現れよ、“狩人の二牙(アルテミス・ストレ)”!」

 低い男の声とともに大蛇の母体めがけて猪の形をした凝縮された魔力の塊が激突する。凄まじい勢いで大蛇の母体は後方へと吹き飛ばされていく。

「チッ……やはりお前は先に始末しておくべきだったか、八番目ェ!」

 憎々しげに金髪の吸血鬼は大柄の男を睨みつける。

「タダで死ぬ気などないよ。せめてわたしにできることは全てやるさ」

 そう言って大柄の男は倒れていた女性を抱える。彼女を連れて逃げる気なのだろうか。

「え……?」

 友妃からそんな声が漏れた。
 そんなことがあり得るのだろうか。大柄の男の体毛が伸び、筋肉はさらに膨張し、一回りほど大きくなる。顔はまるで狼のように変化していく。
 獣人化だ。しかし彼は吸血鬼なはず。先ほど大蛇の母体を吹き飛ばしたのは確実に眷獣だった。獣人であっても無限の命を持つ吸血鬼でなければ眷獣は操れない。仮に操れても寿命を喰らってこの世界へ現れる眷獣によって死が近くなるだけだ。
 いや、そうではない。彼の瞳は緋色に染まっている。つまり彼は獣人族でありながら吸血鬼の力を手に入れたということになる。そんな二つの種族を掛け持つことなど可能なのだろうか。

「おっと、行かせると思ってんのかァ?」

 その声を待っていたと言わんばかりに無から現れたの蛇の群れは、獣人へと向けて襲いかかる。

「させへんでぇ!!」

 ツンツン頭の青年が叫ぶ。すると彼の右腕が鮮血が溢れ出し、膨大な量の魔力が溢れ出てくる。
 黄金の一角。美しい毛並みの一角獣(ユニコーン)が姿を現した。
 それは昨日、友妃が相手にした眷獣に間違いない。全くというほど歯が立たなかった化け物の一体だ。
 咆哮する。それとともに地面から大量の水が噴き出し、無数の剣の形を形成する。そして襲い来る蛇へ向けて一斉に放たれる。
 二つの異物はぶつかり合うと蛇は魔力に、剣は水へと帰っていく。
 獣人は最短距離を選んでこちらへと向かってくる。きっと青年が全てを止めてくれる。そう信じているから迷うことなく動けるのだ。
 全ての蛇を撃ち落としたとほぼ同時に獣人は友妃たちの前へと現れた。

「彼女のことを頼みます、彩斗」

「え? でも……」

 少年が獣人の真っ直ぐな目を見て言おうとしていた言葉を飲み込む。

「……結局、俺は無力ってことなんだな」

 少年は自嘲気味の笑みを浮かべる。
 
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