22.光が灯った日
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道が、自分を導いているような錯覚を覚えさせる。
脳裏に刻まれた悲劇が、一歩一歩歩くたびに頭の中で蘇る。ティズはそれを必死で振り払おうと頭を振った。
「嘘だ……嘘だよな。あんなの夢だよな!」
あんなにもあっさりと村が滅びる訳がない。羊だって家だって、まだあるかもしれない。或いは、自分が生き残ってるんだからひょっとしらら他の誰かが。ありとあらゆる希望的観測が、絶望的な予想と並び立って脳髄を滅茶苦茶にかき乱す。
目の前にコボルドが現れた――邪魔だ。腰からナイフを引き抜き、吠える。
「どけぇッ!!僕は……僕は村に行くんだ!!」
相手が動くより早く、その首を斬り裂いて前へ走る。
体が思うように動かない。全身に鎧を着こんでいるように、足がもつれる。
ずっと眠っていたせいで、身体が衰えていた。
「くっそぉ……!!急げよ、僕の身体!!ティルが……みんながいるかもしれないんだぞ!!」
ウルフが遠吠えをしながら襲いかかってきた――邪魔だ。
震える手でナイフをもう一度握りしめた。
「僕の邪魔を、するなぁッ!!」
すれ違いざまに腹を切り裂く。バランスを崩したウルフは渓谷の谷底へと落下していった。
「まだわからないじゃないか!全滅したなんて、人の話で聞いただけじゃ分からないじゃないか!!生きてるかもしれないだろぉッ!!」
まるで自分に言い聞かせるように、必死に叫び続ける。
喉が張り裂けそうなほどに痛み、全身から汗が噴き出て、とうとう小石に躓いて派手に転んだ。
見覚えのない岩や石が沢山ある。あの大穴のせいで崩れた物だろうか――と、ティズは考えなかった。ただただ、その岩が邪魔だった。もどかしいほど遅く身体を起こし、更に鞭打って走った。
「はぁッ……はぁッ……!!もうすぐ……もうすぐッ!!」
二股に分かれた道の左側を駆けのぼり、曲がりくねった足場を走り抜け、岩によって閉ざされかけた狭い道に無理やり体を押し込む。
この道を抜ければ、ノルエンデを一望できる道へたどり着くんだ。
村の様子が、生存者が、いるかもしれないんだ。
息を切らしながら、ティズは一心不乱に体をよじって岩の向こうへ体を通す。
「あそこ、だ……あの断崖から、よくティルと一緒に村を見渡し……………て……………」
言葉を、失った。
かつて緑に覆われたおおらかな土地だったノルエンデは、どこにもない。
そこにあるのは、どこまでも深く大地を穿つ絶望の影。
土地どころか地形ごとくり抜いたような、巨大すぎる大穴。
禍々しい瘴気を立ち上らせ、生きとし生けるもの総てを無明の闇に葬る奈落が、そこにあった。
何一つ、残っていなかった。
何一つ、村の一かけら、生きていた痕跡すら
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