第5話 : 刻星病・後編
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を無駄にしない。
ランクが変動する戦いではない、だが刻んでやろう……藤原 肇を、もっとずっと沢山の人に……彼女はもう既にりっぱなアイドルだと、星井 美希にも見劣りしないアイドルなんだと。
その為に肇さんのステージに直結している音響ブースを占領……もとい、少しの間だけ独占させて貰った。
今の藤原 肇の表現に100%対応するには、機械じゃ駄目だ……でも人間でも駄目だ。
つまり。機械でも人間でもない“何か”が音響を完全手動で操作するしかない。
ナノ秒単位でアレンジを加えた曲を付与する。
俺はその“何か”で構わない……プロデューサーとは所詮は裏方。所詮は影。
存分に使い潰されてこその存在である。
心は冷たくなっていく……
頭は冷徹になっていく……
世界は止まってしまった……
今の俺は“1人ボッチ”…………
それでも、揺らぎそうになっても……
何度でも胸に燻る想いが俺を繋ぎ止める。
藤原肇が歌いだす。静かに、でも切れ良く鮮やかに。
無駄……荒……そんなモノが見えてくる。
まだまだ……まだまだ未熟。
でも不思議と引き込まれる。完全集中に入れば……いつもならば無駄な事に嫌悪感を抱くのに、藤原肇にはそれを抱かない。
もっと……もっとだ!
もっと彼女を知りたい。そして知って欲しい。
どこまでも果ての無い胸の熱が俺自身にそう焚き付ける。
その熱は根を張るかのように全身に張り巡らされた。一瞬一秒も気を抜かない。
俺には集中力で他者に影響を与えるなんて無理だ。でも、自分ならばどこまでも支配して見せる!
だからもっと熱く! もっと輝け!
俺の気持ちに反応するようにステージも会場もボルテージは上がっていく。
それに釣られるように外部からも人間が集まってきた。
人の海。
あぁ……本当ならば、俺もその海に入りたい。近くで観客として藤原肇を見たい……
なんて邪魔な感情……でも、何だろうか?
この感情は切り捨てたくない。邪魔なのに……効率が悪くなるのに……
切り捨てたくない……
錯覚かも知れない。けど、少しだけ……俺も“星”に近付けた……そんな気がした。
***
「残念だったね……」
軽い打ち上げや何やらで少し遅くなったフェスからの帰り道、車内で肇さんにそう語りかけた。
そうは言っても、バックミラー越しの彼女は晴れ晴れとした顔をしていて、残念とは思ってそうになさそうだ。
「そうですね、残念ですね……もっと長くあのステージに立って居たかったです」
「ははっ……残念のポイント違うって」
軽く言い合う。だが、負けた。俺と肇さんは星井 美希に届かなかった……
正確には引き分けだ。
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