第5話 : 刻星病・後編
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撃必殺。居合い斬りのように鋭く速い先制攻撃。
最上 静香の歌は耳に届いている。
だが……届かない。どうしても肇さんに意識を奪われる。
涼やかで延びのある声に耳を奪われ、そして次は正確無比なダンスに目を奪われる。
それはワルツのように、テンポ良く淡々としているが、緩やかに、でも鋭く機械的に踊る……
三拍子事に鋭くピタリとターンを決めたり、徐々に速度を落として止まったり。踊る振り付けは俺の知るものだが、確実に別物に昇華されていた。その一瞬一瞬が、最高の表現を切り貼りした映像のようだ。
そして……大きいスクリーンに写し出されたその表情は揺るがなく、そして一点の曇りなくステージを越えて観客に届いてると判る。
歌詞に合わせて、笑い。泣き。時として意地悪に顔を背ける。
演技?そう疑問符をつけてしまう様にナチュラルな表現。
目も耳も心も離せない。
これは、この気持ちは……崇拝で憧憬だ。
尊き人を知った時、その姿を視認した時。多くの人間はその在り方に眩しさを、あるいはその真似できない在り方に届かない痛みを感じる。
天高い星の正座の逸話を聞かされる様な、そんな遠い感覚……
藤原 肇は初めから最上 静香を敵とは思っていない。それは不遜ではない。藤原肇は最初から最高の自分を届ける事しか考えて居ない。
それは無敵。強いから敵が居ないのではなく、初めから敵などいない……故に無敵。
ただ最高の姿を求め続け、そして俺達に魅せてくれる。
星の輝きは増していく。
藤原 肇は完成した。何がトリガーとなって完成したかは予測できない。
だが……完成した。
無意識に喜びが漏れそうになって、理性が無粋な音を漏らす事にストップをかけた。
今この場に居る人間の大半が似たような事を感じているのだろう。
この作品を邪魔してはいけない。できるならば呼吸するも停止させてしまいたいと……
完全に藤原 肇はこの場を支配している。
それは集中力の完成形。俺では到達できない遥か高い次元の世界。
集中力とは伝染する。
例えば素人が格闘家と対峙したらどう感じる? 大半がプレッシャーを受けて動けなくなるだろう。
もっと具体的に言えば、芸術家のアトリエに入れば、その存在感に口を閉じる。。
集中力とは他者に伝染し、そして支配する。
これは人間ならば誰でも到達できる可能性はある。だが、それには果て無き鍛練を続けなければならないのだ。
無限の鍛練。揺るがぬ根底。終わり無き覚悟。
直向きに己を正しく鍛える人間のみに宿る絶対の“一”。
無論。生まれ持った才能に依存して、怠惰に過ごす俺には到底到達できない。そもそも俺の集中とは、自分にしか適用されずに、全切り捨てて深い海の底に沈ん
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