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竜門珠希は『普通』になれない
第1章:ぼっちな姫は逆ハーレムの女王になる
素人風という名のプロの演技
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 ……とまあ、この釈明が釈明になっていないことはさておき、惚れ惚れするくらいの即断即決ぶりを見せた珠希には魚屋の兄ちゃんもご満悦な様子だった。

「さすが。わかってるねえ珠希ちゃん」
「当然でしょ。何年こんな生活を――。生活を……」


 ――竜門珠希。
 今年16歳になる高校一年生にして、一家の家事を掌握してはや4年。
 八百屋と魚屋だけでなく、この商店街にある惣菜屋やクリーニング店、金物屋などの店員とも顔見知りという完全なる疑似主婦である。この話のヒロイン(のはず)なのに。
 もっと年齢相応の楽しいことはあるはずなのに、それをほとんど知らずにここまで来た15歳の現役女子高生(JK)はふと我が身を思い返さなくてもいいのに思い返し、所帯臭さという傷口を自らこじ開けてしまったことに絶望していた。


「どうかしたかい? 珠希ちゃん」
「……ううん。とりあえず今お金払ってくから放課後まで取っといて」
「別に金なら帰り際でいいぜ?」
「ダメダメ。忘れると困るから、お互いに」

 まだ疑似主婦生活も若葉マークだった頃、取り置きしてもらった品を忘れるという凡ミスをやらかして以降、買うと決めたものは即座にその場でお金を払うことを癖づけている。

「それじゃ、あまり遅くなってきたら電話してくれて構わないんで」
「おうよ。それじゃ学校頑張ってきな」
「はい。それじゃっ」

 先程の桜鯛の入ったスチロール箱に購入済のシールが張られたのを確認して、珠希は魚屋の兄ちゃんの声を背中に受け、改めて学校に向かった。




  ――稜陽高校。
 去年の梅雨時、いつもの「仕事したくない病(本人はあくまで「六月病」だと主張)」を発症した母・彩姫が本気モードの外面の良さを発揮した三者面談で進学先の第一希望に挙げた学校であり、一時的に10近く偏差値を落としていた(原因はプロローグを参照)珠希が今年の春から通う私立高校である。
 なお既婚者だった当時の珠希の担任が彩姫に惚れこんでしまい、本当に「既婚者『だった』」と表現せざるを得ない事態になってしまったというのはまた別の機会に――。


 数年前の校舎改築と校内設備の刷新に際して外壁が真っ白に変わり、周囲から目立つ建物となった。とはいえ、珠希がこの学校を進学先に選んだ理由は外観や設備の良さからではなく、ただ単に家から楽に通える範囲にあり、睡眠時間を削いでまで勉強することなく合格できそうで、かつそれなりの進学実績と偏差値がある学校というだけであったが。

 そんな学校の1階。
 新学期が始まって間もない新入生たちの教室や廊下では、早くも席が近かったり外見や雰囲気が似ていたり趣味が合いそうだったりする3、4人構成のグループがいくつかできていた。
 いかにも野球か柔
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