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竜門珠希は『普通』になれない
第1章:ぼっちな姫は逆ハーレムの女王になる
素人風という名のプロの演技
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ては定番の光景だ。


「あら珠希ちゃん。まだ制服に着られてるって感じね」
「いやいや、まだ一週間しか経ってないし」
「んもう、そこがまた初々しくていいんじゃない」
「なんかいかがわしい発言に聞こえるのは気のせいかなぁ?」
「まっ、失礼ねっ!」

 続いて声をかけてきたのは衣装作製に使う様々な生地や道具を扱うため結月も顔見知りの手芸品店の店主。
 なお女性店員が他に2名いるものの、身長180近い色黒筋骨隆々なこの店主はガチ(オネエ)である。決してオネエ()ではない。しかも店員さんから、この去勢済み(オネエ)は『ソードアーt(以下略)(SAO)』はあっても、そこからタピオカ入りのカル○スが出てこないとか――朝の爽やかな気分が台無しなエピソードも教えてもらっている。
 ちなみにタピオカは種ではなく、澱粉の塊である。


「あ、珠希ちゃん。今日は活きのいい桜鯛が入荷(はい)ったんだけど、どう?」
「え? ほんとに?」
「ああ、結構な大物だよ。ほら」

 手芸品店の種無しオネエから解放された珠希が魚屋の前を通り過ぎようとすると、この中で商店街に軒を連ねる店の店主の中では最も若い魚屋の(あん)ちゃんが、活気のいい声で今朝仕入れたばかりの品の中でも飛び切りの目玉商品を見せてきた。

「ぅわ、これはデカいね。色もいいし、これかなり値張るでしょ?」
「まあな。でも珠希ちゃんになら特別安くしとくよ?」
「えっ? どれくらい?」
「そう、だな……」

 発泡スチロールの箱の中に収まりきらんばかりの大きさの桜鯛を前に、竜門家の財布を預かる身として、食品や家事用品を衝動買いすることはまずない珠希が値段を尋ねる。

「まあ、珠希ちゃんは親父の代からお得意様だし――」
「――よし買った」

 そして(あん)ちゃんから耳を貸すよう手招きをされ、その値段(税込)を聞いた瞬間、珠希は頭で考えるどころか、本能より早く――むしろ脊髄反射で――返事をした。


 女子高生としての嘴はまだまだ青い一方、そこらの主婦より主婦をしていると言っても過言ではないこの少女、どこぞの巷で聞かれるここ数年と今年の桜鯛の漁獲量と相場と平均サイズをおおよそでも知っている時点で主婦どころか仲買人に転職してもいいかもしれない。少なくとも現役女子高生の持つスキルではないことは確かである。

 一応、この鮮魚担当仲買人予備軍のこの少女の名誉のために釈明すると、ツテを辿れば仲買人の一人や二人は捕まえられる彼女は断じて卸売市場の鮮魚エリアを徘徊しているわけではない。単にどうでもいいことに対する記憶力が人並み外れているうえ、似非主婦生活の長さに伴う魚屋の先代主人(=兄ちゃんの親父さん)から教えてもらった目利きを遺憾なく活用しているだけだ。
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