第百十六話
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そ妾にふさわしいではないか。時には神殺しと争うことにもなろうが、それもまた一興。であればまず捨てるべきなのは・・・記憶か。
こうしているうちにも頭の中に思い浮かんでは消えていく、記憶。先ほどの神殺しとの争いもまた記憶となっている。記憶などというものを持っているのでは、狂気の女神らしくない。
すべての記憶を狂わせろ。狂気で満たせ。妾には感情も記憶も言語も必要ない。ただただ狂気を振りまく存在であれば、それで満たされ・・・
「・・・ダメ。それだけは、ダメ」
ふと、頭に広がった記憶がある。それは、私が武双と初めて会った日のこと。私が女神であると、災害その物といっても間違いではないまつろわぬ神であると、神話において狂気に狂わせる女神であったと。そうであると知りながらかけてくれた、始まりの言葉。
『じゃあさ、俺と一緒に来ない?』
何でもないことであるかのように言われたその一言は、今こうして狂ってみれば『私』が『妾』になることを防いでくれたのだろう。
そして、そんな言葉を女神に対して言う人間に興味を持って、私は私として、『神代アテ』になった。無理そうであれば立ち去ればいい。期待外れであれば礼だけして立ち去ればいい。そんな軽い考えで、神代という苗字を受け入れた。短い期間であれば何か見ることはできないだろうけどそれはそれでいいかという軽い考えで、目の前の人間の家族になることを受け入れた。でも、違った。
『神代の人間は、何があっても、何をしてでも家族を守る』
礼として、私の命と引き換えに武双の命を残すよう、ゼウスに懇願したとき。武双はそんな理由でゼウスに相対した。まだ二日にも満たない時間しか共にしていないのに、そう言って命をかけてくれた。他のみんなと変わらない『家族』であると、そう言ってくれた。
狂え。
捨てたくない。
狂え。
まだあそこにいたい。
狂え!
家族と離れたくない!
「狂え!」
「私はまだはなれない!」
「狂え!」
「私はもう戻らない!」
「狂え!!」
「私はもうただただ力を使うことはない!!」
「狂え!!!」
「神話の時代のように全てを狂わせる気はない!!!」
「狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」
私の口から流れるのは、『私』と『妾』の論争。全く違う声音の、全く違う考えの声が同時に流れて、論争を繰り広げる。でも、もう譲るつもりはない。
戦いの中で呑まれた。それは事実だ。
狂気に身をゆだねることに快感を覚えた。それは事実だ。
私は本来そう言う存在だ。それは事実だ。
今の私の姿の方が間違っている。それは事実だ。
でも、そんなことは知ったものか。そんな正論には興味もない
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