第二十一夜「地上の星座」
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しい光景なのだ。
無論、有名な夜景スポットなんかには比較にならないほどちっぽけだ。
でも、そこには想いがあった。
そこに暮らす俺自身のエゴかも知れない。そうだとしても、俺にとってこの光景は、どんな夜景にも勝るものだった。
そよ風が吹く真夜中の一角で、俺は煙草の先に火をつけた。一瞬だけ闇が切れたが、直ぐに煙草の先のか弱い火だけが残った。
「…フゥ…。」
車からは音楽が流れている。わざと窓を開いておいたのだ。別にクラシック好きと言うわけではなかったが、何となくこの風景に合っているように思えた。
曲が書かれた時代は古いが、演奏しているのは現代の人間なのだ。それも何だか不思議な気がする。バッハやヘンデルなんて二百五十年以上も前の人物だ。その先人の作品を今生きている人間が奏で、それをラジオで聴いているなんてな…。書かれた時代から考えれば、不条理と思える程の贅沢だと言えるだろう。
「ま、こっちはこっちで、苦労も悩みも尽きないもんだがね…。」
何とはなしに一人呟いた。遠き時代に生きた人々に、それとなく伝えたかったのかも知れない。
暫くすると、空がうっすらと白み始めた。山間から徐々に星がその輝きを失い、一つ、また一つとその姿を消し始める。
夜空を覆っていた藍色のカーテンも少しずつ取り払われ、それと同時に、町の明かりも消え始めた。
空に輝いていた星座が眠りにつく頃、町は新たな物語を紡ぐべく目覚め始めるのだ。
「癒しの時は…終わりだな…。」
俺はそう言って、冷たくなった缶コーヒーの蓋を開けた。
その瞬間、山間から太陽が顔を出し、眩い光を大地に注ぎ始めたのだった。
朝だ。
「さて、帰るとするか…。」
手にした缶コーヒーを飲みながら俺は車へと戻り、そのまま来た道を戻ったのだった。
真夜中の幻想的な地上の星座は、俺に癒しを与えてくれた。俺はずっと、それを見るためにこの場所へ来ていたのだと思っていた。
でも、最近こう思うこともあるのだ。この朝日を見るために来てるんじゃないかと…。
朝の光が与えてくれたもの。
それは…
- 希望 -
end...
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