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魔王ナツミの楽園記
始まり
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が最初にこっちにきた瞬間からあたしの中に入り込み、半覚醒状態で概ね大人しくしていたらしい。

 そこからの展開は早かった。
 魔王は群がる悪魔を、無色の派閥を、出来損ないの魔王の憑依体を瞬く間に蹴散らし、本来の力を取り戻して元の世界へとさっさと帰還したのだ。

 が、実はそこには大いなる嘘が一つあった。

 それは、魔王があたし、ナツミを取り込んだというところ。
 実際のところは、魔王があたしの身体を乗っ取ったとかそういうことではなく、あたしと魔王はあの時点で『完全に同化』してしまっていたのだ。
 つまるところ、あの時敵を蹂躙し元の世界へと帰還したのは、ただ単に魔王としての面が強く出ていただけの“あたし”であり、もう本来の、霊界サプレスにいた魔王“餓竜の悪魔王”も、仲間たちの知る“ナツミ”も、そのどちらもがその時にはもう世界のどこにもいなかったのである。

 最も、同化した当初は混乱していて、“あたし”も“俺”も、そのことに気付いたのは日本に戻ってきてしばらく経ってからの事だった。

 結局そのまま日本にいた頃の“橋本夏美”を演じながら生きているものの、どこか、ずっと釈然としないものを抱えていた。
 別に、サプレスに帰りたいとかじゃない。霊体でしかなかった頃の魔王には、リィンバウムは些か居心地が悪く、サプレスこそが何も考えずただただたゆたっていられる安住の地だった。
 しかし、ナツミの器を得てからは実のところそこまで帰ることにこだわりはない。『元の世界に帰るぜ!』と言って帰ってきたのが日本だったあたり、そのことがよく分かる。そう、“俺”は別に、サプレスに帰るなんてことは一言も口にしちゃいない。
 橋本夏美の皮をかぶせて隠してはいるものの、魔王としての力を持つ今ならば日本、この“名も無き世界”からでもサプレスに帰ることは出来る。

 あたしは鞄を持ち替えて、右手に魔力を集めた。
 この世界でも、この通り魔力を扱うことが出来る。どうやらあたしのような存在は、隠れているようだがちらほらはいるようだ。昔はもう少し強い力を持っていたのか、伝承もいくらか残っている。最も、そうでなければあちら側への召喚門が開くわけがないのだ。不安定ではあるものの、道は確かにある。それこそが“名も無き世界”でも魔力を扱えることの証左といえた。

「――」

 右手が魔力を纏いながら発光する。確かに、向こうにいる時よりも扱いにくい。しかし、向こうから持ってきた“あるもの”が、あたしの魔力を活性化していた。
 発光が拡大し収束し、次の瞬間にはあたしの右手は一本の剣を握りしめていた。

「……あたしに、これを渡したのは今でも間違いだったんじゃないかと思うよ、ウィゼルさん」

 もう、手放す気もないけどねー。
 宝石のような小剣、“サモナイ
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