第2話 : 天女の導き・後編
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どうにも一部始終はキッチリと見られて居たよだな。
「……それと、おにぎり……私にも作って貰えませんか?」
「ん?おにぎりを?」
「あまり慣れない場所と料理で、食欲が弱くて……でも、その……少しお腹が空いてるもので」
「なるほど……少し待っててくれ」
手早くテーブルに視線を這わす。
お!面白い物がある!サワラのカルパッチョか……サワラは藤原さんの出身地でも名物の素材だ。
具材はこれでいいよな……少し除菌のためにライターで軽く炙って……タレはカルパッチョのソースで……おにぎりの大きさは少し小さめだな……海苔は無いからタレに浸されて柔くなったレタスで包んで……
うん!即席だけど、それなりだ……本当ならば、もっと美味しいものを食べさせたいけど……これが今の限界だ。
「どうぞ!君のための特製だ!」
「美味しそうです……ありがとうございます」
小さな口で、ゆっくりと食べる藤原さん。その動作一つ一つが礼儀正しく美しい……
それは歌い、踊り、演ずる時もそうだ。
まだまだ完成には遠いけど、後少し……後少しで、彼女は理想の到達点の一つに届く。
そこに至るには、やはりプロデューサーが必要だ……
「藤原さん……担当を頼みたい人が居るんだよね?」
「はい、居ます。ずっと迎えに来てくれるのを待っていました……その人は、研修が終わってようやく正式なプロデューサーになったのに……一週間も会いに来てくれませんでした」
「一週間……研修……それてって……」
「だから、こちらから頼むことにしたんです。……どうか、私をーーーー」
それは刹那。永劫に思えるほどの一瞬。
「星にしてください、船橋 縁さん。夜空に浮かぶ鮮明な“星”に」
“星”。それは俺にとって特別な意味を持つ。
彼女もそれを知ってる。なら、これはそのままの意味だ。
でも、俺が教えられる事は全て、仮担当の時に教えたのだ。今更、彼女の力になるのは……難しいのかも知れない。
「……前に、言ったよね?多分……もう俺が君に教えられる事はないと……」
「はい、でもそれは集中力と技術の話ですよね?私は、プロデューサーとして貴方に手を引いて欲しいんです」
それは真剣な眼差しだ。何処までも遥かなる先を目指す瞳。
なんとも身に覚えのある瞳だ……昔の写真を引っ張り出したら、こんな眼をした自分が写って居るのだろう。
何故……船橋 縁は藤原 肇に憎む程の嫉妬をしたのか……
それは……彼女が自分と似ていたからだ。
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