4部分:第四章
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第四章
こうして多くの者を殺したうえで胡亥は始皇帝の跡を継いだ。李斯は宰相のままだった。だが趙高の権勢は抑えられない程にまでなり李斯のそれを完全に凌ぐようになっていた。そして。
彼は考えたのだった。己が秦の宰相になろうと。そうなれば李斯は邪魔でしかない。これで彼の運命は完全に決まってしまった。
権謀で趙高に勝てる者はいなかった。李斯も冤罪を着せられ激しい拷問を受けた。そして遂には。
彼は処刑場に引き出されようとしていた。その後ろに一族の者達が続く。当然ながら彼の息子や娘達も一緒だ。彼はその中ですぐ後ろにいる次男に声をかけた。
「この門からだったな」
「はい」
李斯は今自分がくぐるその門を見ていた。この門のことはよく知っていた。
「この門をいつも通って御前と狩に行っていたな」
「そうでした」
次男も彼の言葉に頷く。
「時間があればいつも」
「そうして兎を獲っていたがそれもできなくなった」
門を見上げつつ嘆きの言葉を出す。
「何故だ」
そして彼は言った。
「何故わしが。わしがこの様な目に」
逢うのだと言った。だがここで彼は思い出したのだった。
己が過去行ったことを。秦に入りそれからすぐに何をしたのかを。思い出したのだった。
思い出すともう何も言えなくなった。沈黙してしまった。とても話すことはできなくなった。
(そうか)
そして心の中で呟いた。
(だからか)
彼はわかった。自分が今どうしてここにいるのかを。
彼はかつて友人である韓非を陥れ殺した。そして今自分が陥れられ殺される。それだけだったのだ。
(因果か)
彼は次にこう思った。
(あの時の因果でわしは殺される。それだけなのだな)
「父上」
その彼にまた次男が声をかけてきた。
「どうされました?」
「いや、何でもない」
考え俯く顔になっていたが答えた。
「何でもない。ただ」
「ただ?」
「わかっただけだ」
こう次男に返すのだった。
「ただな。わかっただけだ」
「一体何が」
「今ここにいる理由がな。わかっただけだ」
「ここにいる理由がですか」
「全ては巡り巡ってくる」
彼は観念した顔で呟いた。
「何事もな。それだけだ」
「はあ」
「行くとしよう」
彼は項垂れたままだったがそれでも言ったのだった。
「己がしたことからは逃れられぬ。何をしようともな」
最後にこう言って刑場に向かった。彼は全裸にされそのうえで斧で腰を斬られて処刑された。所謂腰斬の刑だ。これが秦帝国を支えた宰相李斯の最期であった。
司馬遷の史記に書かれている描写はその行いについては淡々と書かれていると言っていい。だが李斯は友人である韓非を陥れたうえで殺し自らも陥れられ殺された。因果応報は現実には起こらないと
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