第十九夜「廻り道」
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上に置いた白い紙袋に視線が向いた。
「そう言えば…何が入ってるんだ?」
そっと封を開けて見ると、中には濃い紫で染められた櫛と細工の美しい指輪、そして一通の手紙が入っていたのであった。
「この指輪についてるの…サファイアか?この櫛の金細工といい…。こんな高そうなもの、ほんとに貰って良かったのか…。」
そう思いつつ、遼は添えてあった手紙を読んでみた。
― 遼さん、彼女と喧嘩でもなさったのでしょうか。もしそうでしたら、私からの贈り物を差し上げて仲直りして下さいね。
私はもう充分幸せですので、そのお裾分けです。
遼さんも、どうか幸せになって下さいませ。
菫より ―
「お見通しだった…ってわけか…。」
遼は可笑しくなって笑ってしまった。
ただの客として行っただけなのに、こんな至れり尽くせりでは店が潰れてしまうじゃないかと。
遼は心から深く感謝した。あの喫茶店の仲の良い夫妻に…。
「また行ってみようか。今度は彼女も連れて…。」
しかしこの思いは、結局果たされることは無かったのであった。
少しすると、台所から母親の呼ぶ声がした。
「何!?そんな素っ頓狂な声出して。」
あまりに大きな声で呼ばれたため、彼はすぐに台所へ行った。
遼が台所へ入るや否や、母親が彼に質問してきた。
「これ、どこで貰ってきたの!?」
「だから、さっきも言ったけど、今日行った喫茶店で…。」
あまりにも凄い形相で迫ってきたものであったので、遼は一歩後退さってしまった。
「遼…これ、お爺ちゃんの作ったジャムよ…。」
「え…?」
遼は母親の言ったことが理解出来なかった。
「母さん?作ったって…爺さん、何かしてたの?」
ジャムの入った小瓶を見つめてる母親に、遼は尋ねてみた。
「あんたには言ってなかったわねぇ…。」
一旦遼を見上げたかと思うと、また瓶に視線を落として語り始めた。
彼の祖父母は新婚当時、喫茶店を開いていた。
暫くは何事もなく幸せな生活を送っていた。遼の母と伯母にあたる姉の二人の子を産み、それは幸せであったのだと言う。
しかし、遼の母親が十三の時であった。一つの事故が全てを奪い去ってしまったのだ。
「あの時、お爺ちゃんは私たち三人に買い物を頼んだの。そして私たち三人が町まで買い出しに出掛けていた時だったわ。店でガス爆発があってね…。お爺ちゃん、その時亡くなってしまったのよ。思い出はみんな燃えてしまった。でも、お婆ちゃんは櫛と指輪をバッグに入れてたから…残ってくれて良かったって言ってたわね。お爺ちゃんとの思い出がたくさん詰まってるんだって…。病気で亡くなる時も、傍に置いて離さなかったわ。それで葬儀の時、お棺に入れようとしたら見つからなかったのよね…。ほんと、悪いことしち
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