第十九夜「廻り道」
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た。
「そんな筈はないですって。後にはスフレとお茶のおかわりも頂いたんです。そんな安いはずありませんよ。」
菫は笑いを堪えているようであった。
「今日は特別ですから。ね、あなた?」
傍に来ていた悠に聞くと、悠は笑って答えた。
「えぇ、今日は特別ですので。あれ?菫、君はお渡しするものがあるようだね。」
悠がそう菫に言うと、菫は白い紙袋を遼に差し出したのだった。
「家に帰ったら開いてみてね。」
菫はニッコリと笑った。
「受け取ってなんですが…お客として来たのに、こんなに頂いて良いんでしょうか…。」
少し困った顔をして遼は尋ねてみたものの、この夫妻は「特別ですから。」と言って微笑んでいるだけであったため、ここは喜んで受け取ることにした。
「ありがとうございます。」
そう言うや一礼し、支払いを済ませてドアを開いた。
― カラーン… ―
澄んだ響きが広がる。
外へ出ると、喫茶店の夫妻も見送りに出てきてくれた。
「気を付けてお帰り下さいね。」
「ありがとうございます。それじゃあまた。」
相変わらず、藤の香りが風の中に遊んでいる夕暮れ近い空。
遼は名残惜しそうに手を振る夫妻を後に、元来た道を戻って行ったのであった。
* * *
家に着くと母親が「出掛けてたの?」と、台所から顔を出した。
「あ…うん。少し散歩がしたくなってね。」
遼はそう言うと、苦笑いしながら家に上がった。
母親はそんな遼を見て、溜め息を吐いて言ったのだった。
「随分と長い散歩ねぇ。今日はお爺ちゃんの命日だって言ってなかったかしら?」
「あ…そうだ…忘れてた…。」
そう、今日は遼の祖父の命日なのであった。
「あんたって子は…。」
母親は呆れ顔である。
遼は苦笑しつつ、そんな母親へと喫茶店で分けてもらったジャムを手渡した。
「今日行った喫茶店で、美味しかったから分けてもらったんだ。」
遼がそう言うと、母親は怪訝な表情を浮かべて聞いてきた。
「この町に喫茶店なんて無いのに…。あんた、隣町まで散歩してきたの?」
「はぁ!?」
遼は驚いて目を丸くした。
「俺が行ったのは、ここから二十分位のとこだったけど?」
「おかしいわねぇ…。できたって話しも聞かないし…。まぁ、いいわ。」
母親はまだしっくりこない感じではあったが、取り敢えず台所へ戻ったのであった。
遼は仕方なく、二階にある自分の部屋に向かったのであった。
遼は祖父については殆ど知らない。彼が生まれるずっと以前に亡くなっていたからである。
正直、両親は祖父母のことをあまり語りたがらないのだ。
祖母は遼が四歳の時に病気で亡くなったため、なんとか顔は覚えていた。
その祖母の顔を思い出していると、机の
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