第十九夜「廻り道」
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人でさっさと厨房へ入ってしまったのだった。
男性は“参ったなぁ”という顔で行ってしまった女性を見ていたが、直ぐに遼の方へ向き直った。
「誠に失礼致しました。」
そう言って深々と頭を下げて謝罪したのだった。
「いえ、大変面白い光景を拝見出来ましたので。」
遼はそう言って少し苦笑いした。それから、ふと気になって尋ねてみることにした。
「あの…こちらの喫茶店はお二人で遣ってらっしゃるんですか。」
少し恥ずかしそうにしていた男性は、その問いを聞いて答えた。
「はい。ここで五年ほど前から遣っております。」
男性は頭に手をやりながら言った。その薬指に指輪が光ったことを、遼は目ざとく気付いた。
「ご結婚されてるんですね。」
遼は何とはなしに言った。
「はい。私がパティシェになってこの店を立ち上げた時に…。あの、申し遅れました。私がこの喫茶店オーナーの須藤 悠と申します。先程の女性が妻の菫です。」
そう挨拶されてしまい、遼もつられて返答を返してしまった。
「私は…偶然なんですが、私も須藤と言います。須藤 遼です。」
その名を聞くや、悠は驚いて目を丸くした。
「私は音でユウと読むハルカですが、お客さまは…。」
「僕はリョウと読むハルカです。オーナーの字は心が下にくるユウの字ですね。」
「はい、そうなんですよ。字が違うとはいえ、同姓同名の方に会えるとは。いやはや、ただのお客さまとは思えないですねぇ。」
そんな話しをしていると、奥から菫が顔を出して言った。
「ご注文はお決まりですか?」
二人ばかりが喋っていたので、手持ち無沙汰になっていたのだろう。
それを見た二人は、思わず吹き出してしまったのだった。
実に不思議ではあるのだが、何か家族や親戚といった感じがしたのであった。
一旦落ち着いた遼は、店主へとアフタヌーンティセットを注文していた。遼の前には今、それが並んでいるのだ。
スコーンに一口サンドウィッチ、それにフルーツのタルトレットに香り立つアールグレイ。
まず遼が手に取ったのは、まだ温かいスコーンであった。
それには洒落た小瓶に入ったジャムが添えられており、遼はそれをつけて口に運んだ。
それを口にした瞬間、奥深い味わいが広がり、なんとも懐かしい感じが彼を捉えた。
「このジャムは一体何で作ってあるんですか!?」
彼の声の大きさに、何事かと店主の悠が席に近付いてきた。ついでに妻の菫も一緒に…。
席まで来ると、悠は彼の顔を見て尋ねた。
「どうかなさいましたか?」
随分と心配そうに尋ねられ、遼は困って苦笑いしながら聞いてみた。
「すみません。このジャムって、何で作ってあるのか知りたくて…。」
それを聞いた悠は、ホッとした顔をして答えてくれたのだった。
「このジャムですか
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