3部分:第三章
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皇帝に就くように薦めたのだ。彼の兄弟姉妹達を殺すように唆したうえで。
そこに李斯も加えたのである。この趙高は陰謀の天才であった。もっと言えばそういったことにのみ秀でている男であった。中国の歴史において悪宦官は時折見受けられるが彼はそのはじまりとも言える存在であった。
その彼にとっては李斯を引き込むことすら容易なことであった。胡亥に対して囁いたように李斯に対しても囁いた。このままでは彼の命が危ういと。
「だからです」
「胡亥様を皇帝にというのだな」
「その通りです」
密室でその嫌らしい笑みをそのままに李斯に囁くのだった。暗い密室で。
「そうすれば貴方は宰相のままで」
「命も永らえられるか」
「若し地位を失えばどうなるか」
その場合はどうなるか。このことを囁くのも忘れてはいなかった。
「どうなるか。それはおわかりでしょう」
「死・・・・・・」
秦だけではなく古来から見られたことであった。一旦権勢から離れればそれと共に命を失うことになる。しかも死ぬのは彼一人ではないのだ。
「貴方のご一族も」
「全てか」
「はい。多くの宰相がそうであったように」
趙高はまた囁くのだった。
「貴方もそうなれば」
「では私は」
「宰相でいたいでしょう?」
嫌らしい笑みは闇の中からもはっきり見える。男と女が混ざりそのうえで歳を経たような醜悪な顔であった。その顔でその笑みを浮かべているのだった。
「ならば。ここは」
「胡亥様を皇帝にか」
「そうです」
答えは決まっていた。
「では。宜しいですね」
「・・・・・・わかった」
彼は遂にこの邪な囁きに頷いた。
「それでは。胡亥様を皇帝に」
「他の皇子様や皇女様には死んで頂き」
「主立った臣達にもだな」
「そうです。我々に従う者の他は」
消すというのだった。趙高はそこまで考えていた。
「そのように。貴方の為にも」
「わかった。それではな」
己の命だけは、一族の命までは失いたくはなかった。李斯にしてもだ。だからこそ今こうしてこの囁きに頷いたのだった。止むを得なくではあったが。
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