教師
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愛された美しい曲。
祈りとも思える切なさに満ちたその旋律は私の心を惹きつけて揺さぶる。
最後の弓を引ききって、ゆっくりバイオリンを下ろすと、
発表会の時ほどじゃないけど、やっぱり涙がこぼれた。
「えへ、ごめん。発表会の時も泣いちゃって、先生と飛白にすごい迷惑かけたの」
「なんか、すごかったぞ…」
「嬢ちゃんの中に巨匠がおるのはホンマやねんな…」
ふだんはクラシックになんか全然興味ない2人から、最上級の褒め言葉。
バッハ先生も穏やかに笑ってる。
「舞台で見たときはまさにミューズの降臨だと思ったしね」
「あはっ、それは大げさだよ〜」
「いやいや大げさやないで、プロは目指さへんのか?」
「プロ?コンクールも出たことないのに?」
「それは君が心配だったからだろう?そうやって泣いちゃうから」
「う‥‥‥そう、みたいだけど‥‥‥」
考えたこともなかった選択肢に戸惑う。
お金もらって演奏するなんて想像できない。私には無理だよ‥‥‥
「そういうことはゆっくり考えればいいじゃん」
「そうだね。今は楽しく弾くことの方が大切だろうし」
「この店専属っちゅうのも悪ないしな」
「それにはバッハ先生に怒られないようにならないと、はぁ〜‥‥」
「あっはっは、相当厳しいみたいやな」
「笑い事じゃないんだよ?あの無言の威圧だけでクタクタになっちゃうんだからぁ」
ほんと、あの巨体で睨むのは許して欲しいのに。
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