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BloodTeaHOUSE
教師
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れでも、今日の演奏はお世辞拍手をくれたから、そのうちびっくりさせてやるって思う。

「ふふっ、モーツァルトがお世辞拍手くれたよ」
「サロンの皆さんは大賛辞してたのに?」

2人で今日の出来は良かったねと笑い合う。

「? なんのことだ?」
「またえらい上達したなぁ。上達の秘訣はなんや?」
「あのね、頭の中のモーツァルトに、認めてもらうように弾くの」
「香澄ちゃんの頭の中には、たくさんの音楽家がいるようだね」
「みんな自分の曲だとあれこれうるさくって‥‥」

バッハ先生を思い出して、ちょっとブルー。
あの無言の威圧はホント何とかして欲しいよ‥‥

「そらまたえらい豪華な音楽教師やなぁ」
「頭の中で怒られるから、逃げられなくて大変なの」
「なるほどー、それであんなに上手なんだな」

シューベルトは神経質だし、モーツァルトはふざけ屋だし、バッハは威圧的だし、
ベートーベンはイライラ屋だし、みんなそれぞれ、何かとめんどくさいんだよねぇ。

「教室の先生がのんびり屋さんでホント良かったよ」

先生は怒ることなんてあるのかな?ってくらい、いつも穏やかで、
注意らしい注意すらしないんだよね。
教えは全部バイオリンの音の中だけのやり取りで、困ってるところを弾いてくれて、
あとは自分で考えてみなさいなって感じ。

「それだけの豪華な教師が付いてるんだから当然じゃないのかな?」
「そやな、注意やったら巨匠がしてくれるんやろ?」
「そういうのも才能じゃないのか?」
「うれしくない才能だよ‥‥これだったら怖い先生一人のほうがいい」

これですごく上手なんだったら、そんなに困らないんだけど、
あいにく私はそんなに上手じゃないから、いっぱい怒られるんだもん。
愛の挨拶も、最初の頃はエルガーにもさんざんしかめっ面された‥‥

「でも、だからこそあのG線上のアリアが弾けたんだろう?」
「アリアてなんや?」
「あ、そっか。ここでは弾いたことなかったよね。ずっと前に教室でやってた曲で、
 発表会の時にはそれも弾いたの。Gの弦だけで弾く曲なんだよ」
「弦1本だけの曲なのか?」
「うん。でもきれいな曲だよ」

難易度自体はそんなに高くないせいで、初心者の練習曲として扱われがちなんだけど、
バッハ先生の威圧のせいで、私はずいぶん時間をかけてやることになっちゃったんだよね。

「そら聞いてみたいなぁ」
「こいつだけしか聞いてないってものムカつくしな」
「えと、あんまり期待しないでね?」

バイオリンを構えて息を整える。この曲は始めるのに時間がかかっちゃうんだよね。
力を入れてたり息が乱れてるとちゃんと弾けないから。

呼吸までシンクロさせて弓を引く。
たった1本の弦から紡ぎ出される、神様に
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