1部分:第一章
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第一章
因果
同じ門下で学んだ。そうした間柄だった。
李斯と韓非は荀子の下で学んだ。この当時最高の学者の一人とまで謡われていた人物であり後世にもその名を広く知られるようになった人物だ。
二人はこの荀子の門下で一二を争う程優秀だった。だが誰もがこう言うのだった。
「李斯は秀才だ」
まずは李斯が言われるのは常だった。そして。
「しかし韓非は天才だな」
「ああ。あれは将来凄い人物になるぞ」
韓非はこう評されるのだった。このことが李斯の耳に入らない筈がなかった。
「自分は韓非に劣る」
彼はこのことを自分でも痛感した。
「若し自分と同じ場所に韓非が来たら」
どうなるかを考えると身震いさえした。自分は必ず韓非に敗れる。そう確信していた。
そうしたことを思いながら彼は学を修めた。そのうえで当時中華で最強の国家になっていた秦に仕官した。当時秦は法を求めており荀子の儒学以上に法については強くなっていた彼が仕えるには丁度よい国でもあった。言うならば互いに求め合う存在だったのだ。
彼はまず王の前に出た。玉座にいる秦王の名は政といった。青い切れ長の強いが険しい、冷たい光の目に赤い髪をしておりやたらと大きな鼻に突き出た胸が服の上からも窺えた。そしてその声はまるで狼のようであった。少し見間違えば異形の如き強烈な個性の持ち主であった。
「李斯と申したな」
「はい」
彼はその秦王に対して恭しく一礼して答えた。
「その通りです」
「法で以って余に仕えるというのだな」
秦王はその玉座から狼の声で問うてきていた。玉座は大きく高く彼は王を仰ぎ見る形になっていた。王もまた下に百官を並べて控えさせ傲然と彼を見下ろしていた。
「それで間違いはないな」
「間違いありません」
彼はまた答えた。
「この法で以って」
「わかった」
王は一言で頷いてみせた。
「ではその才で余に仕えよ」
「わかりました」
「以上である」
話自体はすぐに終わった。だが李斯はそのごく短い会見からこの王が極めて冷酷な人物でありしかも人を信じないことを見抜いた。そして鋭く不要な者を消すことに躊躇いがないことも。
事実王はまだ若いながら己にとって不要な人物、害のある人物を次々と粛清していった。謀反を企んだ者はすぐさま一族郎党車裂きにされ実母を監禁し宰相である呂不偉を流した。他にも少しでも意に添わなければすぐさま粛清した。こうした人物であった。
彼は秦でそのことを見て己の見方が間違っていないことを確信した。そしてこう思うのだった。
「わしもまた不要になればああなる」
彼は秦に来てからこう思わない日はなかった。
「用無しとみなされれば」
消される、彼は内心怯えながら王に仕えた。幸いにして
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