第七十話「狂気」
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「ここまでね。サヨナラ、女兵士さん」
ヴァルゴがクレアの頭を踏み抜こうと、脚を振り上げる。
「ごめん、みんな……」
諦めたような表情を浮かべ、クレアはそっと目を閉じる。
あとは、超高速の蹴りが、自身の頭を砕く瞬間を受け入れるだけ……
そう思っていた。
「………あら? この気配はなに……ッ!?」
そこで目の前の適合者の言葉が途切れる。
ヴァルゴが殴り飛ばされる寸前に見たもの。
それは、既に自分の眼下まで迫っていた白髪の兵士が、赤黒く鋭い眼光でこちらを睨む姿。
それも至近距離で。
ヴァルゴはこの瞬間、適合者になってから忘れていた感覚を思い出した。
「純粋な恐怖」を。
ゴギンッ!!!
鈍く不快な音が響き渡る。
咄嗟の判断で左腕にコープスを集中させ、高速でガードの態勢に入った。
しかし、白髪の兵士は構わずガードした左腕を勢いよくぶん殴る。
その瞬間、拳が直撃した左腕の筋肉と骨が、いとも容易く断裂した。
「うっぐぅ!!??」
それでも拳の勢いは止まらず、ヴァルゴはそのままガードした左腕ごと宙に吹っ飛ばされた。
「ブラン、ク?」
目の前の適合者を撃退したのがブランクだと分かり、一瞬安堵したが、それも束の間だった。
何か様子がおかしい。
ヴァルゴを殴り飛ばしてからずっと俯いている。
それに、身体全体にまるで力が入っていない。
この状態でどうやってここまで来れたのか不思議なほどだ。
それに、うまく聞き取れないが、さっきからブツブツと何かを呟いている。
よく耳を澄ませて聞くと、2つの単語を恐ろしい速さで繰り返し呟いている。
「殺す」と「守る」という単語を。
クレアはすぐに気付いた。
話で聞いた暴走状態が再び起こったのだと。
「痛ったぁ…アンタ、レディの腕をいきなりへし折るなんて失礼だと思わない?」
ブランクに殴られ吹っ飛ばされたヴァルゴが、腕を押さえながら立ち上がる。
筋肉と骨が断裂した左腕は、もはや千切れかけの皮膚のみで辛うじて繋がっている状態だった。
とは言え、適合者である以上、どんな傷でもいずれは回復する。
現に、ヴァルゴの千切れかけの皮膚も、再び元通りになろうと修復が始まっている。
出血は既に止まり、千切れた箇所がくっつき始めている。
皮膚が元に戻れば、次は筋肉と骨の修復が始まるだろう。
修復までブランクが待つかどうかと言えば、答えは分かり切っている。
ブランクが走り出す。
自分のもとに向かってくるブランクを殺そうと、ヴァルゴも臨戦態勢に入る。
コープスを両足に集中させ、恐るべきスピ
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