煉獄からの遣い
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ままに、怒りを発散して幾分か落ち着きを取り戻し、代わりに鋭利になった声音で平手を喰らった状態のまま時間が止まったように硬直しているデイドラに問うた。
「……………………」
しかし、デイドラは放心していて平手の痛みも、ノエルの言葉も彼には届いていなかった。
「答えろ!――私と主神様がどれほど心配したかわかっているのか!!」
燃え盛る心火に包まれていた声がわずかにくぐもったことに、放心していたデイドラはふとノエルに顔を向けた。
そのデイドラの目に映ったのは涙を堪えるようにして歯を食いしばりながら、吊り上げている目尻を赤くさせたノエルの顔だった。
「泣いているのか?」
デイドラは無考えに訊いた。
「なっ………………な、泣いてなどいない!!」
ノエルは自分でも気付いていなかったのか、目尻を拭った指先についた冷たい雫に、絶句し、決まり悪く取り繕うように叫び顔を背け、言葉を続けた。
「ただ埃が目に入っただけだっ!それより私の質問に答えろっ」
取り繕えていないことを自覚しているのか頬をわずかに紅潮させている。
「………………ごめん」
「誰が謝れと言った!訳を言えと言ってるのだ!!」
ノエルはデイドラにバッと向き直ると再び目元を吊り上げ、怒鳴った。
「ごめん」
「だから――」
「わからないんだ――いや、覚えていないんだ。ここに来たのは覚えている。だけど、何でここにいるのかがわからない。夢を見ていたように思い出せない」
ノエルを遮ってデイドラは言う。
「――ただ、悪いことをしたとわかっている。俺はてっきり心配などされていないと思っていた……………………ごめん」
デイドラはうなだれるようにして頭を下げた。
そのデイドラを見詰めるノエルの顔からは険がなくなっており、ただ頭を下げられていることにばつが悪そうに黙り込んでいたが、
「帰るぞ」
と、言って背を向けて、
「言っておくが、主神様の怒りはこんなものではないぞ」
と、忠告なのか、そうでないのかいまいちわからない台詞を残して歩き出した。
「わかった。それと、リズ」
「えっ、え、にゃにかなっ?」
ノエルの気迫に気圧されて自分が怒っていたことも忘れて、幽体離脱していたリズがデイドラに名を呼ばれ、慌てて体に戻って、噛みながら答えた。
「…………ごめん」
「うん、別にいいよ」
「ありがとう」
「…………デイドラ」
「何?」
「話し方変わったね」
「……ああ、変わってる」
不思議と驚愕せず、「空が晴れてる」と言うぐらいの軽さでデイドラは言った。
「そっちの方がいいと思う」
「…………
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