煉獄からの遣い
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ズなのか?」
デイドラは薄く目を開くと、か細い声で訊いた。
「うん!そうだよ!身体大丈夫?痛いところない?」
普段なら近づけない距離まで顔を寄せてリズは並び立てるように言った。
その目には嬉しさの発露なのか、涙が輝いていた。
「何処も痛くない、いやいつもより身体が軽く感じる」
デイドラは薄く明けていた目を完全に開くと、手をついて自分で身体を支え、立ち上がった。
リズもそれを追って立ち上がった。
「ここは…………そうか、七階層だったな」
ぐるりとルームの中を見回しながら言った直後に
「ん?何なんだ、これは」
奥に見える通路からこちらに向かって真っすぐ伸びる黒い足跡ができていた。
下を見ると、今自分がいる場所が、その道のもう一方の端だとわかった。
その道を指で撫でると、その腹に黒いすすがこびりついた。
「え?覚えてないの?」
リズがキョトンとした顔で訊く。
「覚えてないって――俺はここで何をしていたんだ」
リズに指摘され、初めて自分が大きく記憶を欠落させていたことに気付いた。
「デイドラは背中をキラーアントに引っ掛かれたんだよ!それもすっごく深く!!だけどね、デイドラは魔法を発動して全部追い払ったんだよ!それでね、それでね、すっごくかっこよかったよ!!」
リズは途中から目をキラキラさせて、頬をほわんほわんさせながらまくし立てた。
「魔法、だと…………」
「うん、超短文詠唱だったよっ!アイズさんぐらいかな〜」
デイドラは――後から付け加えた言葉も含めて――リズの口にしたすべてのことが理解できなかった。その中でも特に魔法が。
自分が七階層に降り立ったのは覚えている。
そして、そこでキラーアントに遭遇したのを覚えている。
だが、そこまでだった。
キラーアントに深手を負わされた記憶など皆無だった。
それに、魔法なんて発現したことも、その詠唱の内容もまるで記憶に引っ掛かるところがない。
「発動した途端、ドカーンって感じだった!そしたら、キラーアントがドーンって吹っ飛んで、襲い掛かったキラーアントも火達磨になって、残りのキラーアントがバタバタと逃げてったよ」
自分のド派手な大規模広域治癒魔法を棚上げにして自分ごとのように一部始終を語りつづけた。
「それは…………本当に俺なのか?」
デイドラはリズに耳を傾けながら、手の平に視線を落とした。
「…………うん、デイドラだよ。酷い怪我だったから記憶がなくなったのかな」
熱く語っていたリズは一転真剣な顔をして考え込む。
「かもしれない。で、お前は何でいるんだ?」
「何でいるって?」
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