煉獄からの遣い
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以上に今なお燃え盛る焔塊にただならぬ恐怖を覚えていた。
先程から微塵も動きを見せていないが、夥しい針に刺されているような殺気に次の刹那に殺されている情景がキラーアントの複眼に映っていた。
一体が僅かに後退したことをきっかけに、硬直していたキラーアントは一斉に壊走し、奥の通路に我先に群がった。
しかし、一度に通れるはずもなく、しばらくの押し合い圧し合いの末にすべてが通路に消えた。
それを確認するように一拍の間を置いて、焔塊はぺたんと座り込んでいるリズに向かって歩きだした。
その歩みは、変わらず、鈍重だった。
長くも短くもない時間をかけてリズの前にたどり着いた焔塊は呆然としているリズにおもむろに手を差し伸べた。
その手にリズも呆然としたまま手を伸ばす。
リズの手が焔の先に触れるか触れないかまで近づくと、その手から逃れるように焔は後退し、さらに近づけるに連れて、さらに後退する。
そして、完全に焔が退き見えるようになった手をリズの小さな手が握ると、一気に焔は肩から胴まで掻き消え、頭と残りの三肢も順に引いていき、ややあって、デイドラは完全に姿を現した。
デイドラがリズを、リズがデイドラを見詰めていたが、不意にふらっとデイドラは座り込んでいるリズに前屈みに倒れ込み、
「わっ、ちょっ、デイドラ!」
と我に返ったリズをあわてふためかせた。
「って、この傷!」
慌てていたリズだったが、背の生々しい傷を見付けると、赤く染めていた頬を蒼白にさせた。
傷は極めて深く大量の血を溢れさせているだけでなく、内臓にさえ達しているようで、息は肺を押し潰されたように苦しげだった。
状況が急を要することは火を見るより明らかだった。
(短文化した治癒魔法じゃすぐに治らない)
リズはデイドラを俯せに横たえさせ、背に手を翳したまま固まった。
(だけど、短文化しないとまた――)
過去の失敗、否トラウマにリズは囚われていた――が、
(…………だけど…………だけどっ、やらないと始まらない!!リヴェリア様にだって見てもらったんだ!きっと今なら!!)
見る見るうちに血の気が引いていくデイドラの顔を見て無限回廊に迷いこみそうになる思考を振り払い、ミネロヴァの言葉を胸に、歯を食いしばりながら、詠唱を紡いだ。
【我が半身を成す大いなる精霊よ】
紡いだ瞬間身体の奥底から溢れほとばしる魔力を感じながらも言葉を続ける。
【時は今、戦の最中なり】
魔力は身体を巡る奔流となって、外界に解き放たれようと身体を裂こうとする。
それにつれて、やけにはっきり聞こえる鼓動が耳朶を叩き、肌を伝いはじめた汗が集中を妨げる。
【兵は傷付き、剣は折れ、
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