第二百十六話 慶次と闇その七
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「生きてることは間違いないがな」
「そうなのか、では会う時になればな」
「会うんだな、お師匠さんに」
「そうするとしよう」
こう飛騨者達に言うのだった。
「探してもおらぬのならな」
「あんたらしい言葉だな」
「うむ、まあそこは運命であろう」
こうも言う慶次だった。
「ではな」
「そうなんだ、じゃあ待っていてね」
鞠は慶次のその言葉を聞いて言った。
「お師匠さんと会うまでは」
「そうするとしよう、ではな」
ここでまた言う慶次だった。
「飲むか」
「ああ、まただね」
大蛇は慶次のその言葉を聞いて笑って言った。
「慶次さん飲むんだね」
「茶にしろ酒にしろな」
「どちらにしても飲むんだね」
「うむ、飲むのは好きじゃ」
慶次は笑ってまた言った。
「酒なら肴、茶なら菓子じゃな」
「どっちにしてもだね」
「わしは好きじゃからな」
それでというのだ。
「どちらも楽しめる、だから茶でも酒でもよい」
「では慶次殿」
ここで拳が彼にこう言って来た。
「ここは酒にするのか」
「酒の方か」
「うむ、近くにいい店を知っている」
「酒屋か」
「料理も美味い」
「ふむ。では酒か」
「それでどうだろうか」
こう言うのだった、そしてだった。
慶次は飛騨者と共にその酒屋に入ってしこたま飲み食った、そうして意気揚々と自分の屋敷に帰った。刻はまだ夕刻だ。
しかし夜の闇が近付いてきている、その時に。
慶次達の前に小柄で白髪を長く伸ばした老人が立っていた。左手には杖を持ち品のいい着物を着ている。
その彼を見てだ、飛騨者達は一斉に言った。
「お師匠さん」
「またどうしてここに」
「いや、呼ばれたと思ってな」
その老人果心居士は飄々と笑って答えた。
「それでじゃ」
「出て来たと」
「ここに」
「うむ、こちらの御仁にな」
慶次を見ての言葉だった。
「それでじゃよ」
「それがしにでござるか」
「前田慶次郎利益殿でござるな」
「如何にも」
慶次は果心居士の問いに笑って返した。
「人呼んで天下の傾奇者」
「その噂も聞いておりまする」
「左様でござるか」
「そして近頃ですな」
ここでまた言う果心居士だった。
「何かを感じておられますな」
「闇を」
「そのことはよく考えて下され
「何故に」
「そこに慶次殿の、いえ織田信長様の」
「上様の」
「道がありますので」
慶次に対して飄々としつつ語った言葉だ。
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